Interview 対談・インタビュー

かがわの里海づくりの第一人者。「NPO法人アーキペラゴ理事 森田桂治氏」に聴く!美しい瀬戸内の海を、100年後に遺すため、いま、私たちにできること。

今回の対談企画は、「あわいひかり」代表の奥田が、香川県内を中心に瀬戸内の海ごみ対策の第一人者であるNPO法人アーキペラゴの理事であり、かがわ里海大学運営委員でもある森田桂治さんに、美しい瀬戸内の海を次世代へ遺していくために、私たちにできることについてご意見を伺うとともに、パッケージ印刷や包装業界ができることについてお話をお伺いしました。

〜Episode1:海ごみとビーチクリーン〜


奥田:今日はお忙しいところお時間を作っていただき、ありがとうございます。
以前、森田さんの講演を拝聴したことがあり、とても素晴らしい活動をされているなと思って、今回の対談をお願いさせていただきました。

森田:そうでしたね。その節は、お世話になりました。今日もお呼びいただき、ありがとうございます。

奥田:早速ですが、わたしたちの活動を紹介させていただきます。わたしたちの運営する“あわいひかり”は2024年の1月に立ち上がった、まだまだ新しいメディアです。主には環境包材や環境印刷についてパッケージ業界だけでなく、広く世間に認知していただくためのメディアであり、そして地球に優しい取り組みも発信していきたいと考えてスタートしました。
あらためて、アーキペラゴについても教えていただけますか?

森田:アーキペラゴは当初、起業支援のNPOとして始まったのですが、瀬戸内国際芸術祭の誘致を機に「島と海とアート」をテーマにしたNPOに進化しました。その中で瀬戸内海に遊びに来る人が増えるのに海ごみがたくさんある状況はどうなのだろう?ということで海ごみ対策を事業のひとつとすることにしました。
もともと僕は、個人的に釣り仲間なんかと海ごみ拾いをやっていたのですが、法人でやったほうが活動の幅も広がりますからね。

奥田:森田さんが海ごみに関心を持ったのはいつ頃からだったんですか?

森田:最初の瀬戸内国際芸術祭の少し前なので、2008年ぐらいですかね。 (※瀬戸内国際芸術祭とは、香川県の12の島と2つの港を舞台に開催される現代アートの祭典で、展示会や公演などさまざまなイベントが実施されます。)
こどもの頃、父と兄と一緒に魚釣りなど海に遊びに行ったときにすぐに飽きて浜辺で貝殻や綺麗な石などを拾うことが楽しみになっていました。今で言うビーチコーミングです。
この趣味は大学生や社会人になっても続けていたのですが、Uターンして香川に帰ってきて、昔はなかった漂着ごみがとても増えていることに気づいて、ビーチクリーンアップイベントなどをはじめました。

奥田:最初から仲間はいたんですか?

森田:いえ、興味ないって言ってた友達に声をかけてやってました。ただ黙々とごみを拾うんじゃなくて、わいわい言いながらやるごみ拾いを最初からやってましたね。そうするうちに、感度のいい若い人たちが集まるようになりました。それと芸術祭が始まるっていう、お祭りの前夜祭みたいなムードもあって盛り上がったんだと思います。



奥田:かつて香川県には豊島(てしま)の産業廃棄物不法投棄の問題がありましたよね。島とごみに関して、何か意識していたことはあったのでしょうか?

森田:意識というものではないのですが、豊島の問題があったからこそ、香川県はごみ問題に対して行政も企業も県民も関心が高いのは事実だと感じますね。
他にも山形や神奈川など行政と民間がうまく協力して海ごみ問題に取り組んでいる地域があります。

奥田:話を戻しますが、NPO法人アーキペラゴの役割はどのようなことだとお考えでしょうか?

森田:法人として15年以上海ごみ対策をしてきましたが、単にクリーンアップをするだけではなく、調査研究と人材育成、関わる人や企業団体とのコミュニティ形成を重要視しています。行政との橋渡しも含め、結果的に、「海ごみを減らしたい!」という人や企業団体をサポートする中間支援の役割が強くなっていると思います。

奥田:この15年間で、アーキペラゴの役割というのは以前と比べて変化しているのでしょうか?

森田:そうですね。以前は私を含めてスタッフみんなで県内各地の海ごみを拾ったりしていたのですが、今はおかげさまで香川県をはじめ、いろんなボランティア団体なども増えてきたこともあってごみを拾うだけではなく、ごみを捨てないことやごみにしないことなどの啓蒙活動や講演活動などもできるようになりました。
前は私のモチベーションで活動の量が変わる、みたいになっていたのですが、今はみなさんが積極的に海ごみ拾いをやってくれるおかげで一定の成果が出ていると感じています。
ある日曜日ですが、父母ケ浜で清掃を行っているちちぶの会のビーチクリーンに6時から参加して、そのあとに沙弥島へ行ってビーチクリーンをやるという、海ごみ清掃をハシゴする人も出てきたり、すごく幅が増えているんですよ。
そうなってくると、アーキペラゴはどっちかというと、新しく清掃活動を始めたい人に対してやり方をお教えしたり、ごみの回収方法をお教えしたり、あるいは道具がなかったら貸してあげたりっていう中間支援的役割が今は多いですね。

〜Episode2: 瀬戸内海の魅力と瀬戸内の海ごみ〜


奥田:私も観音寺の海に近い場所で生まれ育ったのですが、大学や就職で県外に出てたまに帰ってくると瀬戸内の美しさというのを改めて感じていましたし、最近は森田さんたちの活動のおかげもあって瀬戸内国際芸術祭の期間以外でもたくさんの観光客に瀬戸内に来ていただけるようになったと感じています。
私も身近な方を招くと、みなさん一様に瀬戸内海の美しさや素晴らしさを褒めてくださいます。



森田:ここにきて、やはり瀬戸内海が持っているポテンシャルっていうのが、改めて評価されているのだと思いますね。実際、わたしたちも企業さんの研修をお引き受けすることがあるのですが、会議室でやるよりも海に出てやった方が、絶対にみんなが喜ぶんですよ。
待ち時間15分あるけど大丈夫ですか?って尋ねても、会議室だと不満そうな顔をされる方もいらっしゃいますが、浜辺にいるだけでみなさん嬉しそうなんですよね。

奥田:本題に入りますが、森田さんの考える海ごみの定義をお教えいただけますか?

森田:海岸漂着ごみ、漂流ごみ、海底堆積ごみの3つを「海ごみ」と呼ぶのが一般的です。海域で発生したものだけでなく、川を通じて街のごみが運ばれるなど、陸域で発生したものもありますね。
中でもプラスチックごみの問題はウエイトが大きいです。特に量や重さでいえば圧倒的に漁網なんですけれど。

奥田:学者さんによってはプラスチックも溶けて、地球に戻るという説もありますが?

森田:砕けてナノサイズまで小さくなっていっているのは間違いないですね。でも、分解はしていなくて存在はしていると思うんですよ。ただ、すごく困るほどあるかどうかっていうのは、学者さんでも意見が分かれるところみたいですね。
そこまで小さくなったら微生物にくっついて海底に沈むので、もう上がってこないものは問題にしなくてもいいんじゃないという話もありました。
少しマニアックな話をすると、シミュレーションによれば、1立方メートルの水槽があったとして、その中に1グラムのマイクロプラスチックが入ると、そこで飼われているエビや貝などの生物は成長しなくなるんですよ。餌と間違って、マイクロプラスチックを食べているからなんです。でも、現在はそのような濃度の海はまだ存在しないんです。
しかし、2060年過ぎには日本近海で、そのような濃度の海ができてくると言われていて、それはヤバいやろっていう話もあるんです。まだ、はっきりとしてないというのが正しいですが。
でも、実際に日本近海は中国や東南アジアの影響で、マイクロプラスチックがものすごく多くて地球全体の平均の27倍というデータがあるのも事実です。



奥田:本当ですか!?
それが事実なら日本の海、瀬戸内の海も危ないことになってしまいますね。
では、そうならないために私たちはどうすればいいのでしょうか?

森田:そうですね。適切な処理をすればいいと思います。
プラスチックを全くゼロにすることは無理だと思いますし、プラスチックがなくなると困ることもありますよね。だから、プラスチックの材料や処理方法を見直して、環境に負荷がかからない工夫や努力が必要だと思います。

奥田:そうですね。まずは適切に処理することが今できる最も手近な対策ですね。
そして海水で分解する包装フィルムの開発やプラスチックに替わる素材を使用するなど、さらに環境への負担を減らす努力が必要になってくると思います。

森田:「発生抑制」と「回収促進」が対策として考えられますが、奥田さんのいう通り、新しい素材の開発などで使い捨てプラスチックを減らす取り組みとともに、私たちももっともっと活動を通じて川や海でごみを拾う人を増やすことを重点的に進めていかなければいけないと感じています。

奥田:ところで、香川県特有の海ごみというのはあるんでしょうか?

森田:はい。香川県の海ごみで最も多いのは、全国的にも問題になっているペットボトルとキャップなんですが、特徴的なものといえば牡蠣の養殖などに使われている「豆カン」というプラスチックの管です。これは、瀬戸内の牡蠣養殖で使われているもので、海に落ちたり外れたりしたものが太平洋を漂流していることがわかっています。実際にミッドウェイ島で繁殖活動をしているコアホウドリの雛の胃袋からも大量に見つかっていて、今後の対策が急務です。

奥田:そういうものこそ、生分解性素材や木などの代用品で賄われるべきでしょう。

森田:そういう素材や代用品も作りはじめてはいるのですが、コストや品質の問題があるようですね。

〜Episode3: 里海づくりと給水オアシス〜


奥田:森田さんが委員をされている「かがわ里海大学」についてお話をお聞きしたいのですが、里海大学を開設された趣旨はなんでしょうか?

森田:そもそもなんですが、海が好きじゃない人に、海を大切にしましょうって言っても無理ですよね。いくら啓発活動をしたりポスターを貼ったり、CMを流しても、それだけでは海を好きにはなれません。やっぱり海に来て、海の良さを体験してもらわないといけないということで、体験ツアーをやったり、海で遊んだりしてもらって、海や瀬戸内海の魅力を知ってもらう活動をやる必要があるのかなと思ったんですね。
でも、私だけでは人手が足りないから、瀬戸内の海の素晴らしさを伝えられる人材育成をしようっていうのがかがわ里海大学の始まりなんです。

奥田:森田さんが考える理想の海ってどんな海ですか?

森田:そうですね。まずはごみのない美しい海っていうことですね。
そして、多様性のある海というのも大切だと思います。そして、交流と賑わいのある海。この3つを全部成り立たせようというのが香川の里海づくりなので、交流する人を増やしたいという思いはありますね。海で遊ぶ人、海のことが好きな人を増やそうと。
そうでなければ、美しい海も多様性のある海もできないだろうっていうのがあります。

奥田:現在、アーキペラゴさんでは積極的に香川県内に給水器の設置を進められていますが、給水オアシスを設置しようと思われたのも理想の里海づくりの一環でしょうか?

森田:10年以上、海ごみを調査してわかってきたのですが、海岸漂着ごみの中で多いもののひとつがペットボトルということでした。その対策としてマイボトルの利用促進を進めたかったのですが、ペットボトルを買ってマイボトルに入れ替えるのはちょっと違うのではないかと思ってしまって。
特に夏は、昼頃にはボトルが空になるので、香川県らしくうどん屋さんにお水の提供してくれるようお願いに伺ったのがきっかけですね。


終始リラックスムードで会話が弾む佐久間前相談役と奥田代表


奥田:給水オアシスを設置してみて変化はありましたか?

森田:一日の動線の中に「給水スポット」がないと、このシステムは機能しません。うどんを毎日でも食べる私みたいな人間は問題ないのですが、そんな人は香川県でも少数派ですので、本命としてはオフィスや学校、みんなが集まる公共施設に、浄水した水道水を提供できる給水器の設置が一番だと考えています。
現在、ご協力いただいている飲食店や施設をオアシスマップとしてサイトなどに掲載していますが、それがきっかけとなって行政も必要性に気づき、坂出市や高松市は積極的に設置する方向に動いています。



奥田:素晴らしい取り組みですね!
ここまでくるのに、なかなか大変だったのでは?

森田:そうですね。仲いいところやよく行くお店は自分で営業して。あとはうどん屋さん同士のネットワークみたいなものを使わせていただいたり。結構、若い店主がやっているお店だと横の繋がりがあるみたいで、あそこがやっているのならやってみようかという感じで広がりました。他には、県内のうどん屋さん全てにDMをお送りしたりしましたね。

奥田:DMを送って反応はあったんですか?

森田:それが思いのほかありまして。水道料金で考えるとペットボトル1本の水を入れても0.02円程度なので100人来ても2円程度なんですね。また、浄水器のレンタルが月に3,500円程度なので1日100円ほどで給水に来るお客さんが来店してくれると考えれば、広告費的にはとても安上がりだと思います。
また、現在は全国的に給水スポットを増やそうっていう活動が起きていて、私たちもリフィルジャパンというプロジェクトの香川県支部として活動しているのですが、民間だけでなく行政機関が積極的に動いてくれて飲食店などに広げてくれています。

奥田:そんなに安いんですね。水道水を使っているならボトルの水を交換する手間やコストがかかりませんもんね。

森田:浄水器のフィルター交換もレンタル費に含まれています。
重いボトルの交換や大きなボトルをストックするだけでも大変ですからね。
そして、CO2削減の観点からしても、ペットボトルの水を買うより、給水器で水を入れる方が30分の1で済むというデータもあります。

奥田:なるほど。
それを聞いて“あわいひかり”のオフィスにも給水オアシスを設置しなければと思うようになりました。

森田:ぜひ、“あわいひかり”でも、給水器とマイボトルの導入を!

奥田:かしこまりました。前向きに検討いたします!
今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

  • 取材・文

    森本 未沙(海育ちのエバンジェリスト)