Interview 対談・インタビュー

日本航空を利用すると、 気づかぬうちに 地球のためになっている!? その取り組みを深掘りしてみた。

私も、月に数回は出張のために利用している航空機。地球の環境負荷の面から考えれば、航空業界の二酸化炭素排出量は世界の温室効果ガス排出量の2〜3%を占めると言われています。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界の航空業界の年間の二酸化炭素排出量は約7億トンにのぼり、これはドイツ1カ国の年間排出量に匹敵します。ヨーロッパでは、航空機を利用すること自体が環境破壊につながるという意見もあり、航空業界はさまざまな環境対策を行なっていると言います。そこで、今回は私も利用している日本航空(JAL)さまに環境対応をはじめ、持続可能な社会の実現のためにどのような取り組みを行なっているのかをお聞きしました。

お客さまとのすべての接点において一貫性のある高品質なサービスを提供し、顧客満足度とブランドロイヤルティを高める役割を担っている日本航空 カスタマーエクスペリエンス本部 商品・サービス開発部 部長の岩本さま、マネジャーの岡澤さま、國友さま、松岡さまにお話を伺いました。

JAL機に乗る楽しみの1つ「SKYWARD」。


あわいひかり:今日はお忙しい中、お時間を作っていただいてありがとうございます。
早速ですが、今日もJALさまの飛行機を利用させていただいて東京に来ました。いつも楽しみにしている御社の機内誌「SKYWARD」を拝見しているとGPマークが付いていましたが、環境印刷はいつから行なわれているのですか?

國友さま:いつもJALをご利用いただいてありがとうございます。「SKYWARD」は2025年1月号から環境印刷に切り替えることができました。

あわいひかり:そうなんですね。きっかけはどのようなことだったのでしょうか?

岩本さま:日本印刷産業連合会主催のGP環境大賞というものがあり、2023年に環境大賞を受賞させていただきました。その際にGPマークの普及に尽力されているGP PR大使の小山薫堂さまから、ご自身が関わられている印刷物と当社の機内誌「SKYWARD」、どちらが早くGPマークを付与できるか、という挑戦状をいただきました。以前からGPマークの拡大を意識し「SKYWARD」への付与も検討していたのですが、より加速度的に取り組みを進め、実現することができました。

あわいひかり:小山薫堂さまとお約束されたからということもありますが、それ以前に環境印刷の下地はできていたのですよね?

岩本さま:はい。環境大賞を受賞できた理由の一つは、機内でお客さまにお渡ししている、機内食のメニューカードをGP認定の印刷で対応していたことにあります。より多くの人にご利用いただき、手に取っていただける機内誌「SKYWARD」にもGPマークをつけたいということで、挑戦を受けました(笑)。ちなみに、機内でお客さまにご提供する紙類の90%以上をFSC認証資材に切り替えていたこともあり、その延長線上でそこに印刷する工程においても環境に配慮したものとしたいと思っていた背景もあります。

あわいひかり:GP大賞の表彰式が2023年10月、「SKYWARD」を環境印刷に切り替えられたのが2025年1月号からということですので、切り替えには一定程度の準備が必要だったのですね。


定期購読も可能なJALの機内誌「SKYWARD」


松岡さま:はい。「SKYWARD」は、私たちとは別の部署が担当しているので、まずはGPマークって知ってますか?というところから始まり、GPマークの付加の可否や印刷会社さんとの調整などを行なっていただいて、なんとか付けることができることにはなりました。原稿の締め切り納期を早める工夫など、さまざまな部署と調整を行ないました。

國友さま:「SKYWARD」にはJALグループの様々な会社や部署のみならず、協力会社さまなどもたくさん関わっていますので、調整するのは大変でしたが、みなさん能動的に動いていただいて、環境への配慮というか、できることはやっていこうという前向きな捉え方で進めていけたのが良かったと思います。

あわいひかり:JALさまのような巨大企業の広報誌ですので、私たちが考えるよりご苦労があったのですね。ところで、環境印刷に切り替えられて地球環境への負荷を軽減する努力をされていますが、その先には「SKYWARD」のペーパーレス化などもお考えなのでしょうか?

岩本さま:将来的にそうなることもあるかもしれませんが、現時点ではオンライン化は決めていません。毎日、たくさんのお客さまに日本航空をご利用いただき、「SKYWARD」を手に取ってご覧いただき、「SKYWARD」を楽しみにされている方、記事を提供いただいている皆さま、広告主さまのご意見を聞くとペーパーのままが現時点ではいいのかなと思っています。何より紙に印刷したものであるからこそ伝えられるものも多くあると思っています。


カスタマーエクスペリエンス本部 岩本正治部長


あわいひかり:航空機の軽量化による環境負荷の軽減という観点からはオンライン化が望ましいのかもしれませんが、フルサービスの航空会社として、お客さまに特別な価値をご提供するという観点ではペーパーのままであって欲しいと個人的には思います。

新規石油由来プラスチックを0(ゼロ)に。


あわいひかり:御社では2030年に向けた成長戦略として「ESG戦略」を掲げておられますが、具体的にはどのようなことを推進されているのでしょうか?

岩本さま:JALグループではSDGsの17ゴールを網羅すると同時に、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字をとったESGを成長の柱として捉えています。中でも、CO2の排出量削減は航空会社の使命であると考えています。特に運航時に排出するCO2が多いことからその削減を目標とし、2050年までに排出量実質ゼロを目指して「省燃費機材への更新」や「運航の工夫」、「次世代燃料であるSAF(持続可能な航空燃料)の活用」などに取り組んでいます。その他にも先ほどお話しした通り、GPマークの取得やFSC認証紙への置き換え、新規石油由来の使い捨てプラスチックの削減など、環境対応には注力しています。

あわいひかり:航空機を利用する私たちにとって身近な取り組みとしては、どのようなことをされていますか?

松岡さま:JALをご利用いただくお客さまが感じられる1番身近な環境対応としては、機内やラウンジにおける「新規石油由来プラスチック製品の全廃」があります。2025年度中の達成を目指しています。

あわいひかり:もう少し具体的に教えていただいてもよろしいですか?

岡澤さま:たとえば、機内でのカップ類、その蓋やマドラーをはじめ、機内食をご提供する容器や留め帯、そしてトレーマットなど、使い捨てのプラスチック製品はすべてFSC認証の紙容器に置き換えたり、バイオマスプラスチック、リサイクルプラスチックを利用した容器に替えたりなど、努力を行なっています。


JALの機内で提供される容器やコップなど


あわいひかり:容器の代替を進める上で、大変だったエピソードはありますか?

岡澤さま:機内食のメインディッシュに使っている容器の変更です。紙を主体とした容器を使用しているのですが、紙だけでは内容物の水分が浸透してしまい、容器が破損してしまいます。そこで容器の内側にバイオマスプラスチック素材のフィルムをラミネートして容器が破損しない工夫を行なっています。その素材と加工技術が難関で、やっとご提供できるようになったのが印象深いですね。

あわいひかり:機内で当たり前のように提供されている容器1つ1つにも、工夫や努力が隠されているのですね。
ところで、2025年度中に新規石油由来の脱プラ100%を掲げられていますが、いつからどのような取り組みを行なってきたのでしょうか?

岡澤さま:今でこそ、わが社の取り組みを取り上げていただいて、最先端なことをやっているように思われているのですが、実は2019年にはストローをプラスチックから紙に変えたり、マドラーを木製に変更したりする程度でした。2020年にESG戦略担当の部署ができて、現在に続く大きな流れができました。

あわいひかり:そうなんですか!?案外、最近から始められていることに驚きました。実際に脱プラ100%は今年度中に達成可能なのでしょうか?

松岡さま:2025年の5月時点で96%が達成されています。あとの4%も今年度中には達成できる見込みです。


カスタマーエクスペリエンス本部 岡澤賢哉マネジャー

カスタマーエクスペリエンス本部 松岡恵美主任


あわいひかり:すごいですね!ちなみに、最後の4%はなんだったんですか?

松岡さま:まだ代替素材になっていない例では機内でお配りしている紙おしぼりの袋があります。これまでの代替素材だと長期間保管するとおしぼりの水分が蒸発してしまう等の課題がありましたが、なんとかこれを解決できる素材の目処がつきました。
そのような素材を見つけて提案いただいた取引会社の方には感謝しかありませんね。

あわいひかり:本当にすごいこと。偉業ですね。JALさんのような大きな企業だけにいろいろな課題があったと思いますが、使い捨てプラスチックを0にする企業としての意気込みと社員の志が実現した成果だと思います。

ESG活動に彩りを。「ヘラルボニー」コラボ


あわいひかり:ところで御社では2021年から、今では世界中で評価され、たくさんのファンやサポートする企業を持つヘラルボニーさまとコラボされているそうですが、どのようなきっかけでスタートされたのでしょう?

岩本さま:2020年ごろから社内ベンチャーの促進をしている中で、CA(客室乗務員)の一人がヘラルボニーさまの活動を知り、何かできないかとプロジェクトを立ち上げました。その一環として、2021年12月に羽田空港で「廃材アート展」を行ない、2022年1月には青森県の三沢空港でアートラッピングを実施しました。
その時は「ヘラルボニー」と聞いて、海外アーティストだと思い何気なくアートを観ていました。その後、今の部署に異動し、部下からヘラルボニーさまを紹介され、なにか一緒に面白いことはできないかと相談を受けました。その際に「ヘラルボニー」の目指している世界、目的、想いを知り、彼ら彼女らの作品を観て、これはJALとして応援したいと思いました。そこで、機内サービス用品のデザインとして使用させていただくこととなり、2023年8月から、国際線エコノミークラスの機内食のメインディッシュのフタを固定する紙帯に12種類のアート作品を起用させていただきました。

國友さま:その他にも国際線ファーストクラス、ビジネスクラスのお客さまにご提供しているアメニティポーチにヘラルボニーさまと契約しているアーティストさまの作品を起用させていただいています。最近では機内の紙コップにもアートを使わせていただいています。お客さまの評判もとてもよく、多くのお問い合わせもいただきました。

あわいひかり:ポーチはもちろんですが、コラボされたカップやトレイの帯などは捨てるのがもったいないと思うほど魅力的ですね。

岩本さま:そうですね。機内でのある出来事に関するSNSの投稿を見つけたことがあります。コラボレーションしたカップでお飲み物をCAが老夫婦にご提供したところ、とても気に入ってくださって、「ぜひ紙コップをいただけませんか」とおっしゃったそうです。その際に、CAがヘラルボニーさまの活動についてご紹介したところ、とても感動されて「いい時代になりましたね」と。実はこの投稿、その一連のやり取りを見ていた別のお客さまが投稿してくださったのです。
お客さまと企業をつなぎ、さらにお客さまとお客さまを心でつなぐ、私たちとのコラボが社会に新たなつながりを生み出していると知るきっかけにもなりました。


ヘラルボニーとJALとの専用コラボサイトは、https://www.jal.com/ja/sustainability/heralbony/


あわいひかり:先ほど岩本部長からお話しいただいたESGのS(Social)、つまり、より良い社会への貢献という意味でも、ヘラルボニーさまとのコラボは素晴らしい取り組みだと思います。

岩本さま:そうですね。しかし、単に社会貢献ということではなく、お客さまへのサービスに更なる付加価値をつけていただいていると私は考えています。

あわいひかり:どういうことでしょう?

岩本さま:プラスチックから紙などの代替素材に変える環境にやさしい活動を私たちは行なっています。地球環境に負荷のかからない取り組みを行ないながら、社会貢献しつつ、JALではそこに価値を付加していく必要があると考えています。お客さまに心はずむ旅をご提供する。今回それを具現化できたのがヘラルボニーさまとコラボしたコップであり、紙帯であり、ポーチだと思うのです。
つまり、JALグループをご利用いただくと、知らず知らずのうちに地球環境の保全と共によりよい社会にも向けた貢献ができる。更に旅に彩りを添える。そういう、さりげない取り組みこそが大切なのだと思っています。

あわいひかり:なるほど。地球環境に配慮し、よりよい社会を目指しつつ、お客さまの思い出に残る旅をご提供しているJALさまらしい取り組みだと思います。今後も、コラボは継続されていくのでしょうか?


カスタマーエクスペリエンス本部 國友俊輔アシスタントマネージャー


國友さま:そうですね。2025年3月から5月にヘラルボニーさまと東京モノレールさま、JALの3社でコラボして、東京モノレール天王洲アイル駅構内にて作品を紹介しました。これからも、様々なコラボを予定していますので楽しみにしていてください。

あわいひかり:本日は、お忙しい中、お時間をいただいてありがとうございます。これからのJALさまの活動に注目し、機会があれば、また取材に伺いたいと思います。今後とも、よろしくお願いいたします。

取材の最後に、格納庫へご案内いただき、整備の現場を拝見しました。
そこでは、地球環境への取り組み以前に、航空会社として安全と安心を第一に、まずは人命を守る責任を社員一人ひとりが自覚し、ネジ1つでも厳しく管理されている姿や、万一の時を想定してCAの方々が厳しい訓練をされているのが印象的でした。


※「徹底した安全管理は、航空会社の最優先事項」と話す岩本部長。

  • 取材・文

    林 健二(リエゾン)