Report レポート

燃やせるごみは、燃やすごみ?ごみ焼却大国の日本で、日本初、燃やさないごみ処理場

香川県三豊市(人口約6万人)の家庭から出る燃やせるごみ(家庭系一般廃棄物)のすべてと事業系の燃やせるごみの一部を引き受ける、民設民営の「バイオマス資源化センターみとよ(運営/株式会社エコマスター)」。このごみ処理場は、焼却処理しかないと思っていた燃やせるごみを燃やさず微生物の力で分解・再資源化しています。それらを可能にする日本初のトンネルコンポスト方式(好気性発酵乾燥方式)を取材しました。

燃やせるごみは、燃やすごみ?

そもそも「燃やせるごみ」は焼却を前提とした言い方で、日本では呼び名の通りどの自治体でも焼却炉で燃やして処理をしています。しかし、燃やせるごみは生ゴミや紙おむつなど水分を含むものが多く、燃やすにはまず水分を蒸発させる必要があり、乾燥したものを燃やすよりたくさんのエネルギーを必要とします。この状況は、世界からみると一般的ではなく「日本の水は燃えるのか?」と驚かれるほどです。

もちろん、日本のごみが特殊で燃えやすいわけではなく、石炭をはじめとする応分の燃料を投入し水分を蒸発させながら燃やしているから燃えているのです。つまり、たくさんの燃料を消費し、CO2をはじめとする温室効果ガスを排出しながら処理を行っています。また、焼却した後の灰には重金属が含まれるため大半が最終処分場に埋め立てられますが、処分場の残余容量と数は減少傾向にあり、場所の確保は厳しい状況が続いています。そんな中でも、ただ燃やすだけではもったいないと、同時に発電や余熱利用など、発生するエネルギーを無駄にしないための様々な工夫も行われていますが、発電機能のある焼却場は全体の38.5%(令和5年3月末時点)にとどまります。

近年では持続可能な社会を目指す意識の向上により、日本全体で排出される燃やせるごみ(一般廃棄物)は減少傾向にありますが、人が生き続ける限りごみはなくなることはありません。今や水道や電気と同様にごみ処理場は止まると困る、私たちの快適で衛生的な生活に欠かせないインフラのひとつとなっています。しかし、ごみ処理をしつづけるかぎり燃料は消費されCO2は排出され焼却後の灰は溜まり続けます。この事実を必要なことだからと割り切って、私たちはこれからもごみを燃やし生活をしていくのでしょうか?


日本初、トンネルコンポスト方式の燃やさないごみ処理場。

それらの悩ましい問題の解決案のひとつを実践しているのが、香川県三豊市にあるごみ処理場「バイオマス資源化センターみとよ」。三豊市は平成18年(2006年)に7町が合併して生まれた人口6.5万人余りの市で、当時、隣の観音寺市と共同で新しい焼却炉を建設する予定がありました。しかし、「ごみは燃やさない」を公約に掲げた横山市長(当時)が当選したことにより方針転換。プロポーザル(企画競争入札)による公募の結果、株式会社エコマスター(以下、エコマスター)が提案したトンネルコンポスト方式を用いたごみ処理場案が採用となりました。三豊市には下水道がないので、廃棄物も排水も出ないこの方式は場所との相性も良かったそうです。

トンネルコンポスト方式はヨーロッパでは一般的なごみ処理方法で、燃やせるごみを微生物と一緒にバイオトンネル(発酵槽)に入れ密閉し、発酵・乾燥による分解を待つという方法です。発酵に必要な菌は、私たちの生活に常在しているものなので特別に用意する必要もなく、回収したごみを前回の分解物と空気の隙間を作るための木屑と混ぜてバイオトンネルに入れるだけ。温度と湿度の管理は必要ですが、17日間待てば有機物は分解されるというとてもシンプルな仕組みです。

この方法だと、ハサミで切り刻んで分解して綺麗に洗えば再利用できるんだろうか?と思いながら捨てていた汚れのついた食品パッケージや紙おむつなどの部分的なビニールもプラスチックを使用している部分だけ取り出せ、それを資源として再利用することが可能です。また、発酵する際に発生する熱はかなり高温となるため、大抵の病原菌は死滅するので、紙おむつなどの衛生ごみも安全に扱うことができます。もちろん、有害なガスや排水、埋め立てが必要な最終処分物は発生しません。


臭気が漏れないよう施設内部は減圧してあるので臭いはなく、外から見ただけでは中でごみ処理をしていることは想像できません。

集めたごみは溜め込まず、すぐ破砕機で小さくします。それに前回の分解物やごみの中に空気の隙間を作るための木屑を混ぜ合わせ、バイオトンネルに運びます。

奥にあるのがバイオトンネル(発酵槽)。ごみが3.5mの高さになればバイオトンネルの扉を閉めて、発酵・乾燥の段階に応じた温度と湿度管理をしながら17日間待ちます。すると水分を含んだ生ゴミまで跡形もなく分解・乾燥されます。

バイオトンネルから取り出されたものは、分解物と木屑と分解できない紙やプラスチックに選別されます。その後、燃やすとダイオキシン類を発生させる原因の一つとなる塩化ビニールをセンサーで判別し取り除きます。

選別された、分解できない紙やプラスチック。圧縮梱包され固形燃料の原料として出荷されます。

バイオフィルター。施設から発生する臭気はすべて集めて、においも微生物で分解します。雨上がりの森の中の匂い。

分解後に残った紙やプラスチックを固めて燃料にしたもの。この燃料を使用するには、この燃料に対応した炉が必要なので、受け入れ先の確保も重要です。

分解で残ったプラスチックを集めて資源として再利用することはヨーロッパでは行っておらず、この点は、もっとできることがあるという探究から生まれたこの施設独自の工夫です。また、運び込まれたごみを溜めずすぐ処理することで最低限の臭気におさえ、その臭気も微生物による脱臭装置でしっかり分解しているので、微生物を利用したこの処理方法はヨーロッパで一般的な方法にもかかわらず、国内の自治体はもちろん海外からもたくさんの視察がこの施設で行われています。

ごみを焼却していた時に比べ施設から出るCO2は年間3,276トンほど少なく抑えられており、ごみの分解後に出たプラスチックから作られる固形燃料は石炭と同等の熱量にもかかわらずCO2排出量は少ないので、石炭に置き換えて使うと年間約9,759トンのCO2削減が可能です。それらに、固形燃料を製造・運搬する際に発生するCO2と焼却しないことで削減されたCO2を足し引きすると、なんと全体で年間10,172トンものCO2排出が削減できます(2021年実績/エコマスター調べ)。その量は実に、杉の木が一年に吸収するCO2の約722,212本分に相当します。
これらの数字に焼却に必要な燃料の掘削や輸入、最終処分物の廃棄時にでるCO2は入っていませんので、実際はさらに削減されていると推測できます。


施設内は、微生物を守るため殺虫剤や薬品などを使用できないので、猫たちがねずみなどの小動物が入り込まないよう警備員として活躍しています。

新しい方式に対する抵抗と反発。

これまでの流れをみると悪い点が見当たらず、どちらかと言えばいいことの方が多いトンネルコンポスト方式ですが、なぜ焼却方式以外のごみ処理場が増えないのか疑問が生じます。これについて施設を運営するエコマスターの担当者にお話をお聞きしたところ、市町村のごみ処理場建設計画は通常10年ほどかけて議会で検討されるそうです。日本の議会は前例を踏襲することが多く、新しいものを取り入れるのにはとても慎重になる傾向があります。今回取材させていただいた「バイオマス資源化センターみとよ」についても、当初は焼却から別の方法へ切り替えることを不安視する声があり、決定から準備に5年、内3年は日本の家庭ごみがトンネルコンポスト方式で本当に分解できるのか、どのくらいの期間でどのくらいの量が分解できるのかなどを、イタリアのメーカーに小型プラントを製作してもらい香川大学と山梨大学の協力のもと徹底的に実験・検証が行われました。その結果に基づき、慎重に計算した上で建設・稼働へと進んだそうです。

結果、三豊市の家庭からでる燃やせるごみは、すべてトンネルコンポスト方式で処理しているのですが、懸念されていた臭いや衛生面への苦情は、現在に至るまで何一つ来ていないそうです。それ以上に、ごみ処理はうまく回っており、余力で工場系の燃やせるごみの受け入れも進められています。さらに、この現状を踏まえごみ処理にトンネルコンポスト方式を検討・決定する自治体も少しずつ増えているそうです。まさに三豊市の決断とエコマスターの努力で、焼却一択だったごみ処理業界に風穴が開いたといえます。


エコマスターの鎌倉さん。

バイオフィルターを説明してくれる森脇さん。

施設の全体模型。方式がシンプルなので施設もシンプル。働く人も6名のみ。

これからのごみ処理と私たちにできること

では、すべての燃やせるごみをこの方式で処理したらいいのかというと、そうではないようで。トンネルコンポスト方式は、一度トンネルにごみをいれると17日間開けられないので、処理できるごみの量に上限があります。また、受け入れるごみの量により施設に必要な面積が増えるので、都市部などでは相当する場所の確保が難しいと思われます。今回取材した「バイオマス資源化センターみとよ」では、三豊市の年間のごみの量を逆算してバイオトンネルの数や大きさを設計しています。そのため、極端に量が増えると処理が追いつかなくなるそうです。また、有機物の分解を前提にしているので災害ごみ(瓦礫を含むごみ)など無機物の多いごみは処理に向いていません。病院からでる感染症などのリスクの高いごみに関しても、受け入れは難しいそうです。対して焼却処理は、融通が利きそれらも受け入れ可能です。このようにどちらか一方があればという話ではなく、役割を分けて効率よく運用できるのが望ましい未来かもしれません。

最後に、エコマスターの担当者に私たちにできることをお伺いしました。
「ものを大切にすること、不要なものは買わないこと。出たごみは自治体のルールに沿ってしっかり分別してください。そして、燃やす以外で環境に配慮しながらごみ処理ができる方法がある、ということをたくさんの方に知って欲しいです。」

ごみ処理場のシステムについては、私たち生活者が直接関与できることではありませんが、自分が出したごみの行方に関心を寄せることは、これからのより良い未来に変化をもたらすあわいひかりだと思いますので、引き続き注目していきたいと思います。

※トンネルコンポストは、新和産業株式会社の登録商標です。
参考:環境省「一般廃棄物処理事業実態調査の結果(令和3年度)について」、「一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和3年度)について」。

  • 取材・文

    林 健二(リエゾン)