Report レポート

エネルギー資源は家庭や事業に眠る!廃棄物からつくる低炭素の固形燃料RPF

私たちの家庭や様々な事業から排出される廃棄物を原料として作られる固形燃料RPF(Refuse derived paper and plastics densified Fuel/ごみ由来の紙やプラスチックを高密度化した燃料)は、エネルギー資源の少ない日本で、他国に頼らず自前で安定供給できる低炭素燃料として普及しています。今回は、以前取材した燃えるごみを燃やさず処理する「バイオマス資源化センターみとよ」から排出される廃棄物や自社で回収した産業廃棄物をもとに、RPFを製造・出荷している株式会社パブリック(香川県観音寺市)にお話を伺いました。

日本初、燃やさないごみ処理場の記事はこちら
http://awaihikari.media/report/entry-62.html

エネルギー資源小国の日本。

エネルギー資源とは、石油をはじめ石炭・天然ガスなどの化石燃料や、原子力、太陽光・地熱など自然にある物質から発生するエネルギーの源のことを指します。私たちはそれらを電気やガソリンなどの燃料に変換・加工しエネルギーを消費することで、様々な産業を発展させ便利で快適な暮らしを実現しています。

しかし日本は、自国で採取可能なエネルギー資源に乏しく、資源エネルギー庁が発表しているエネルギー自給率は、2014年度に過去最低の6.3%を記録。その後、全体的なエネルギー消費の低下や再生可能エネルギー(水力を除く)の増加に伴い、2022年度には12.6%まで上昇しましたが、残りの不足分は他国から化石燃料を輸入するしかなく、世界主要国のエネルギー自給率でみると51カ国中48位という現状です(2021年/国際エネルギー機関 IEA調べ)。

エネルギー資源を輸入に頼るということは、日本の経済や暮らしは常に他国の情勢に左右される不安定な状態にあるともいえます。また、世界は脱炭素化へ向け、よりクリーンなエネルギーへ移行している最中にあります。仮に化石燃料が自国で採掘できるようになったとしても、他の選択肢を増やし、安定的で環境に配慮したエネルギー資源を探し続ける必要があるのではないでしょうか。
だとすれば、今までにない新しい概念のエネルギー資源を見つけるか、今あるもののエネルギー転換ロスを無くし、いかに上手くやりくりするかという2通りのやり方が考えられます。RPFは、まさに後者の考えから生まれた製品で、私たちが生活していく上で廃棄されるごみを原料とする固形燃料なのです。


ごみがエネルギー資源へ生まれ変わる?

そもそもごみをまとめ固形燃料にするのは、ヨーロッパ諸国で広まっていた方法です。集めたごみは埋立処分にすることが多いヨーロッパ諸国では、埋立処分場へ運ぶごみの量を減らすためにリユースやリサイクルが進んでいました。その中で、リユース・リサイクルのできない食品や紙・プラスチックなどの可燃ごみをまとめ固めてRDF(Refuse Derived Fuel)と呼ばれる固形燃料を製造していました。この方法は、既にごみとして捨てられたものがもつエネルギーを燃料として回収することで、応分の化石燃料の使用を減らすことができる効率的な方法でした。
そのことが1990年頃に日本でも知られるようになり、各地の廃棄物業者でRDFの開発がはじまりました。取材に伺った株式会社パブリック(以下、パブリック)でも、業界誌でRDFのことを知り開発に乗り出したそうです。

当時、既に近くのテーマパークでは、そこで廃棄されていた食品を中心とするごみを原料にしたRDFを製造していました。しかしRDFは本来、水分を飛ばしてから固形化するものですが、食品を中心としたごみは水分が多く湿度の高い日本では完全な乾燥が難しかったそうです。そのため製品となるRDFは強い臭気が取れず、完成した製品の販売先が広がらないという厳しい状況でした。それを踏まえパブリックでは、食品以外のリユース・リサイクルできない状態の紙・木くず・プラスチックなどを原料とし、RPF(Refuse derived paper and plastics densified Fuel)と呼ばれる固形燃料を製造することになりました。


問題が山積したRPFの開発。

水分の問題がなくなったのでRPF開発がすんなり進んだかといえば、それ以外でも問題は山積でした。まずは、一定の形に成形できないという問題。RPFが燃料として効率よく燃焼するためには、大きさが均一であることが必須です。大きいとゆっくり燃え、小さいと速く燃え尽きます。それらが混在すると火力が定まらず、必要な温度に達しなかったり、必要以上の火力になりエネルギーの無駄が発生してしまいます。そのため、安定して成形できる原料の配合を試行錯誤する必要がありました。

次に、RPFに含有される塩素濃度の問題。塩素が含まれるプラスチックごみを低温で燃やすと不完全燃焼となり生物に有害なダイオキシン類が発生します。逆に高温で燃やすと炉を傷める原因となり、なんとも厄介な物質なのです。塩素は主に食品パッケージなどに付着する塩分や、ポリ塩化ビニルでできた食品用ラップなどに含まれますが、廃棄主に食品パッケージをきれいに洗って捨てることを求めるのは難しく、便利で多用される食品用ラップの完璧な分別も現実的ではありません。それ以外にも食品パッケージに使用されるフィルムは実は何層にも重ねられていて、私たちが目視で見分けられるものではありません。
そのためパブリックの場合、廃棄されたごみを加工する前に塩素が含まれるであろう原料を大まかに仕分けし、それ以外の原料との配合を調節しながらRPFを製造しています。それでも完全にコントロールはできないので、完成したRPFを2時間おきに分析器にかけ計測し、塩素の含有率にあわせて出荷先を変えることで不良品が出ないよう工夫しています。


原料に熱を加え圧縮して固め、一定の大きさに成形します。

完成したRPF。

出荷されるRPFに匂いはありません。パブリックの金崎さん(右)とRPFの匂いを確認する林(左)。

そうして完成したRPFは、リユース・リサイクルできない廃棄物の減容に大きく貢献しています。またRPFはエネルギー回収率にも優れており、廃棄物を燃料化せずそのまま燃やした場合のエネルギー回収率は通常10〜20%ですが、固形燃料にすることで60%を超えるエネルギーを回収することができます。この事実を知ると、私たちは普段いかに資源を贅沢に消費しているかがわかります。
さらに、燃焼時に排出されるCO2は石炭と比べて1/3ほど少なく、エネルギー効率は石炭と同等です。燃やした後に出る灰の量も、灰化率3〜7%と石炭より少なく抑えられます。このように、性能の面からも環境にやさしい燃料なのです。

安定的な廃棄物回収とRPFの出荷先。

完成した製品を活用するために何より必要になるのが、原料になる廃棄物の安定した回収とRPFの出荷先の確保です。パブリック本社がある観音寺市周辺には、大きな製紙会社や食品加工工場、食品フィルムを印刷する工場が多く、必要な廃棄物は比較的安定して手に入る環境でした。2017年には三豊市で、家庭ごみを燃やさず微生物の力で分解するトンネルコンポスト方式のごみ処理場「バイオマス資源化センターみとよ」が誕生し、そこから排出される廃棄物はすべてRPFの原料として引き受けています。

RPFの出荷先の確保には、少し苦戦されたそうです。RPFを燃料として使用するためには専用の炉が必要で、受け入れ側も大きな設備投資をする決断が必要でした。パブリックが受け入れ先を探すなか、2005年にRPFを使用する意義に共感した大手製紙会社が1社名乗りをあげました。そこから続く数社の導入が決まり、2010年にはJISにて国内で流通するRPFの品質基準が制定されました。以降、環境意識の高まりとともに、現在では複数の安定した出荷先を確保できているそうです。
RPFは開発当時から石炭に比べて安価でしたが、現在では石炭の価格上昇が進み経済的メリットが出やすくなったことも、追い風となりました。

パブリックでは1990年に廃棄物から固形燃料をつくると決めてから本格的に販売できるようになるまで、実に15年ほどの歳月がかかっています。その間RPFの開発に延々と投資が続いたわけですが、原料となる廃棄物を排出する工場やRPFを燃料として受け入れられる工場が多い地域で活動するパブリックとしては、回収した廃棄物を処理する静脈産業の使命として、限りある資源を少しでも無駄なくリユース・リサイクルすることを目指した結果だそうです。


出荷前のRPF。

RPFの現在と未来。

RPFは、長い開発年月の試行錯誤から生まれ、関連業種に携わる方たちの知恵や意識の向上により、より効率的で環境に配慮された燃料へと進化を続けており、石炭に代わり国内で生産できる固形燃料としてなくてはならない存在になっています。しかしまだ課題は残されているようで…。


RPFは性能も環境配慮の面からも優れているので、輸出すれば日本はエネルギー資源大国になるのでは?とも思われますが、加工して固形燃料になったとしても「廃棄物」という扱いは変わらないため、バーゼル条約(有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関する条約)により他国との取引はできません。

世界では脱炭素社会に向けて進んでいますので、低炭素のRPFがこれから先も必須の燃料となるには、ケミカルリサイクル技術(廃棄物に化学的な処理を施し、他の物質に転換してから再利用すること)の発展が不可欠です。また、人口減少と環境意識の高まりや技術革新により、ごみの総排出量は年々減少しています。そもそもの廃棄物が少なくなれば、製造できるRPFも減少してしまいます。
最後にこの点について、パブリックの金崎さんにご意見を伺いました。
「私たちは、モノを作り生み出す動脈側ではなく、出た廃棄物を処理するという静脈側の業者です。RPFがこの形でいつまで続いていくかは分かりませんが、静脈産業に携わる一員としてその時代々々に応じた手法で、我々の社会正義をしっかり果たしていきたいと思っています。」


私たちの体の中で動脈と静脈が心臓でつながり血液の再生を繰り返しているように、家庭・企業・地域・そして国を超えて「廃棄」という考え方が「再生」に変わる日常になることで、輸入エネルギーへの過度な依存から脱却する未来がすぐそこまで来ていると、今回の取材を通じて強く感じました。

参考:資源エネルギー庁「総合エネルギー統計(令和4年度)」、IEA「世界のエネルギー自給率(2021年)」。

  • 取材・文

    林 健二(リエゾン)