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産卵数が、遂に0に!? ウミガメの町で、いま何が起きている!?

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徳島県美波町大浜海岸。かつては、産卵のために上陸したアカウミガメを見るために大勢の人が集まったウミガメの町。しかし、現在では産卵数が減少し、上陸するウミガメの数も激減していると言われています。なぜ、ウミガメは大浜海岸へ産卵に来なくなってしまったのか?ウミガメはどこに行ってしまったのか?ウミガメの現象と環境問題には何か関連性があるのか?さまざまな疑問を解決するため、ウミガメの町「美波町(旧日和佐町)」にある「日和佐うみがめ博物館 カレッタ」の平手康市館長を訪ね、ウミガメについてお話を伺いました。

あわいひかり:今日は、お忙しいところ取材にご協力いただいてありがとうございます。
旧日和佐町はウミガメの町として四国内では有名ですが、そもそも日和佐町がウミガメの町と呼ばれるようになったのはなぜなのですか?

平手館長:こちらこそ、遠路からお越しいただいてありがとうございます。
旧日和佐町は四国内だけではなく、日本はもとより世界中で、ウミガメの町として知られている町なのですよ。

あわいひかり:日本だけでなく、世界中で有名な町なのですか?その理由は?

平手館長:遡れば75年前になるのですが、当時の日和佐ではウミガメが当たり前のように上陸し、産卵していました。1950(昭和25)年6月に日和佐大浜海岸で遊んでいた中学生が、食用の為に解体されたウミガメを発見しました。日和佐中学校で理科教師をされていた近藤康男先生もその光景に強い憤りを感じました。当時は食糧難の時代で、ウミガメは捕らわれて食肉とされていたようです。「このような悲しい事が起きるのは、人々がウミガメの事を知らないからに違いない。我々でウミガメの事を調べて皆に伝えよう」と立ち上がり、近藤先生の指導の下、ウミガメの調査が始まりました。

あわいひかり:それまで日本では、ウミガメを保護して観察や研究をする機関や施設はなかったのですか?

平手館長:はい。当時、日本だけでなく世界を見渡しても、組織的にウミガメを調査する機関や施設はありませんでした。だからこそ、1950年から現在までウミガメを観察し、研究している日和佐という町が「ウミガメの町」と呼ばれ、ウミガメの研究者の間で聖地とまで言われているのです。

あわいひかり:そうなのですね!四国内のウミガメの産卵数の最も多い場所が日和佐だということでウミガメの町と呼ばれているものだと思っていました。


※カレッタの館長に就任される前は、沖縄でウミガメの研究をされていた平手館長。


あわいひかり:当時の日和佐中学校ではどのようなことが行われていたのですか?

平手館長:毎年、ウミガメの上陸回数や産卵回数を記録するのはもちろん、卵を孵化させるための実験や子ガメが海に帰る習性?の研究なども行われていました。

あわいひかり:中学生の研究レベルではありませんね!

平手館長:そうなのですよ。近藤先生の熱心な指導もあったのでしょうが、子どもたちが精力的にウミガメと向き合ったことで、それまで謎とされてきたウミガメの生態の一部を解明する貴重なデータが日和佐には残っています。そして、その活動内容は1988年に開催された「日和佐海亀国際会議’88」で口演され、これを聞いた世界のウミガメ関係者は強い驚きとともに称賛しました。それ以来、世界のウミガメ関係者にとって「Hiwasa」と「Mr.Kondo」の名前はウミガメの調査活動の発祥を示す代名詞として伝えられています。近藤先生の業績はこれだけに留まりません。国際会議に日本国内から参加していた若手ウミガメ研究者に対して、「広く回遊するウミガメを知るためには各産卵地での情報交換が不可欠だ。その組織づくりを君たちがやってくれ」と託したことが発端となり、国内外のウミガメ関係者の情報交流の機能を持つ「日本ウミガメ協議会」が発足し、毎年、ウミガメに関係のある地域で「日本ウミガメ会議」が開かれるようになったのです。そして、当館がリニューアルオープンした今年は美波町(旧日和佐町)で36回目の会議が開催されました。こうして、近藤先生の業績によって日和佐がウミガメの町である事が国内外に知られるようになったのです。

ウミガメの生態は、まだまだ謎だらけ!


あわいひかり:ところで、ウミガメは産卵の時に泣いていると言われますが本当でしょうか?

平手館長:そういうことを言う人もいますが、涙は産卵が苦しいわけでも、陸に上がって辛いわけでもありません。体内の余分な塩分を排出する生命維持機能なんですよ。



あわいひかり:そうなんですね!他にも、ウミガメは自分が生まれた場所に産卵のために戻ると言われていますが、それは本当なのでしょうか?

平手館長:それは半分当たりで半分間違いです。アカウミガメにとって子孫を残す為には強い暖流の存在が欠かせません。北太平洋で言えば日本の黒潮がこれに相当します。なので北太平洋にはアカウミガメの産卵地は日本にしかなく、産卵のためには日本に戻る必要があります。一方、1つの砂浜の環境が産卵に適さなくなった時、その場所にこだわり続けることは種の存続に不利益なので、日本の別の砂浜で産卵することがあります。これが半分当たりで半分間違いということです。
このように産卵場に戻った1匹のアカウミガメは1回の上陸で100〜120個の卵を産みます。これを1シーズンに4~5回繰り返しますので、1年に産卵する数としては400~750個程度になります。1匹のウミガメが毎年産卵する訳ではありませんが、カメの仲間としては異例の多さです。海で子孫を残すということは、そのくらい多くの卵を産まないとならない事と考えられるのです。卵は砂浜の表面から30〜40cmくらいの深さに産み落とされ、砂の温度で孵化します。卵は約50〜60日で孵化し、生まれたばかりの子ガメは自力で砂浜の表面まで這い上がり海を目指して歩き始めるんです。

あわいひかり:100〜120個も卵を産むのですね!生まれたばかりのカメは目が見えるんですか?

平手館長:はい。見えています。視野は左右180度で上下は20〜30度ほど見えていると言われています。

あわいひかり:見えているとはいえ、どのように海を認識して戻ろうとするのでしょうか?

平手館長:ウミガメの孵化は夜中から明け方に行われ、孵化したウミガメは本能的に陸地より明るい水平線の光に向かう習性があります。天文学的には大気光と呼ばれる現象で、地球の大気は太陽の光を受けてエネルギーを蓄え、夜になると淡い光を放ちそのエネルギーを放出しています。この大気光は、人工的な光の影響がない環境では水平線で最も明るくなり、子ガメはその方向に向かって歩けば自然と海にたどり着けるのです。

あわいひかり:すごい能力ですね!孵化した後に、すぐ海に入るのには理由があるのでしょうか?

平手館長:外敵から身を守るためと限られたエネルギーを最大限に活用するためですね。砂浜には、たぬきやイタチ、蛇、カラスなどの外敵がいます。また、海にたどり着いても大型の魚や鳥などに捕食されます。こうした危険なゾーンをいち早く通り抜けて、黒潮の流れに乗りたいのです。
しかし、小さな体に蓄えられるエネルギーはほんのわずかで、24~48時間程度しか保てません。なので子ガメは寄り道していては生存できないのです。

あわいひかり:成長したウミガメが、また産卵に戻るのはどれくらいの確率なのですか?

平手館長:ウミガメは産卵を開始する年齢が20~40歳といわれていますが、寿命が明らかでないので、その生涯で何個の卵を産むのかわかっていません。おそらく膨大な数の卵を産み続けてその内のごくごくわずかなウミガメが生き残ることで種を繋いできました。
この大浜海岸で生まれて海に出た子ガメは、何年もかけて太平洋に分散して漂流生活を行っていることがわかってきました。その一部はアメリカのカリフォルニア半島周辺にも到達します。こうして長い時間をかけて成長したウミガメが、日本の砂浜に帰ってきて産卵することがわかってきました。


※カレッタでは日和佐がウミガメの町になった経緯を知ることができます。


あわいひかり:生まれたばかりの子ガメが海に入り、波にさらわれずに泳ぐことができるんですか?

平手館長:生まれたばかりの子ガメにも泳ぐ能力はもちろん備わっていて、とくに孵化したばかりの子ガメは、いろいろな方向から波が打ち寄せてもそれに逆らって泳ぐ本能があるんです。また、子ガメには地球の磁気を学習する能力があると言われていて、海に入ったばかりの頃は波に逆らって泳ぎつづけます。この時、進んでいる方向を地磁気で感知し、そのあとはその磁気に従って泳ぐ方向を維持して黒潮に向かい、その流れによって太平洋に広く散らばって行きます。

あわいひかり:アカウミガメに関しては、いろんなことがわかっているのですね。

平手館長:そうではないんですよ。実際に日本で生まれたカメがどのような浮遊生活を行い、どのくらい広く分散しているのか、何年ほど漂流生活を行い戻ってくるのか?などなど、まだわからないことはたくさんあります。しかし、カメの甲羅に、衛星追跡用発信機をつけてリアルタイムに位置情報を確認したり、様々な行動記録装置を装着したりすることで海中での行動を調査する「バイオロギング」という新しい手法の調査が盛んに行われ、新事実が次々と報告されています。

日和佐大浜海岸での
産卵数が減った原因はナニ!?


あわいひかり:大浜海岸でのアカウミガメの産卵の最盛期はいつで、どれくらい産卵されていたのでしょうか?

平手館長:最盛期は1968年で約300回の産卵があったと言われています。しかし、1990年以降は産卵数が減少していて、昨年は1匹のカメが7回の産卵を行っただけにとどまりました。

あわいひかり:減少した原因はどのようなことが考えられますか?

平手館長:1番大きな原因としては、海側に対して陸側が明るくなってしまったことだと思います。

あわいひかり:どういうことでしょうか?

平手館長:成長したアカウミガメは日本の周辺に戻り産卵に適した砂浜を目指しますが、その時に大きな障害となるのが陸の明るさです。これは産卵する親ガメが外敵を避けるためでもありますが、人工的な光がない環境では、大気光によって海はうっすらと明るく、陸はそれよりも暗いのが当たり前です。しかし、海岸沿いに街が栄え、街灯などが深夜でも明々と夜空を照らすと本来の明暗のコントラストが崩れます。陸が海より明るくなってしまうと、わずかなエネルギーを使って沖に出たい子ガメの生存には致命的な影響になります。その結果、ウミガメは海から見て夜も明るい砂浜での産卵を避けていると考えています。

あわいひかり:確かにその通りですね。夜の海に行くと、海よりも陸のほうが明るいのがわかります。本能に従って行動するカメにとって、海側と陸側の明暗の逆転は種を維持するために極めて不利な状況なのでしょうね。

平手館長:その通りです。そこで、私たちはウミガメの産卵を妨げないように夜に暗い陸を取り戻すための活動として、国や美波町と話し合い、道路に設置されている街灯にシェードをかけて街灯が足元だけを照らし、光が空に漏れないような工夫も行っています。また、ウミガメに影響の大きい白っぽい光源を使うのではなく、影響の少ない赤っぽい光源を使うことでウミガメへの光害の影響を少なくすることを呼びかけています。


※カレッタでは、ウミガメの進化やさまざまな種類のカメについても学ぶことができます。


あわいひかり:ウミガメの街にふさわしい、素晴らしい取り組みですね!その他にも、減少した原因があれば教えていただけますか?

平手館長:そうですね。光害に関していえば、大浜海岸の背後には日和佐八幡神社の鎮守の森があり、昔はそれが光を遮断していましたが、そのような鎮守の森の衰退も考えられますね。

あわいひかり:そうですか。ウミガメの体内からプラスチックゴミが見つかったり、網に絡まったウミガメの姿をニュースなどで見たりすることもありますが、そのようなことも原因になっているのでしょうか?

平手館長:はい。日本の産卵地に実際に産卵に戻ってくるウミガメ自体の数も減っていますから、そのようなことも考えられますね。シケなどで仕方なく海に投棄されてしまった網はウミガメにとって脅威ですし、餌だと思って飲み込んでしまったプラスチックゴミもウミガメの生命に悪い影響を与える可能性があります。

あわいひかり:今では生分解フィルムなどの環境に考慮した素材もさまざまなものに採用されていますが、それについてはどのようにお考えですか?

平手館長:環境負荷の少ない素材の開発は喜ばしいことですし、それを採用する企業も素晴らしい取り組みだと思います。ただ、ウミガメの観点からお話しさせていただくと、そのような素晴らしい素材が開発されても、まずは人間がゴミを捨てないことが重要です。また、万一ゴミとして出てしまった場合、それが環境対応の素材であっても、ゴミを捨てて良いという免罪符になってはいけません。

あわいひかり:おっしゃる通りです。環境に優しいからといってゴミを捨てたり、ゴミを増やしたりするのでは意味がありませんね。

自然の邪魔をしないこと!
これが人と自然が共生する道。


あわいひかり:一度減少してしまったウミガメの産卵数を増やすことは、なかなか難しいと思いますが、今後どのようなことが産卵数を増加させるために必要だとお考えですか?

平手館長:ウミガメの産卵数の減少は日和佐だけに限らず、徳島県内はもちろん、日本、そして世界中で問題となっています。大浜海岸に例えていうと30年かけて減少してしまったものは、30年以上かけなければ元には戻らないと思っています。
そのために、私たちがやらなければいけないことは、「人が自然の邪魔をしないこと」だと考えています。
ウミガメは本来、自力で種を維持できる存在です。それを邪魔しているのは人間です。夜の陸を海より明るくしているのも、ゴミを海に流しているのも全て人間の所業です。人間がウミガメの種を維持する営みを正しく理解し邪魔をせず、大切に見守ることこそがウミガメの保全活動であり、人とウミガメが共存する道なのではないでしょうか。

あわいひかり:これから私たちがアカウミガメを守るために、何かできることはありますか?

平手館長:もちろんあります。ゴミを海に流さないことも、海岸を掃除することも大切です。
そして、まずはウミガメや砂浜について知ること、関心を持つことが大切です。
そのため、ぜひ「日和佐うみがめ博物館 カレッタ」に足を運んでいただければと思います。

あわいひかり:日和佐のウミガメについては、なんとなく子供の頃からニュースで観たり、新聞で読んだりしていたのですが、カレッタに訪れてみて、よりウミガメについて学ぶことができ、知らないことばかりでタメになりました。
本日はお忙しいところ、ありがとうございました。


大浜海岸のアカウミガメに関するお問い合わせ:
日和佐うみがめ博物館 カレッタ 
0884-77-1110
https://caretta.town.minami.lg.jp

  • 取材・文

    森近 正大(文案家)