Interview 対談・インタビュー
昨年は東北地方を中心に四国と九州を除く地域で大きなニュースとして取り上げられることも多かったクマ被害。あわいひかりでも、四国のツキノワグマの状況を取材し、記事として発信しましたが、読者の方々から多くの反響が寄せられました。そこで、四国のツキノワグマの状況について、さらに詳しく正しい情報をお伝えするため、再度、四国のツキノワグマの生態を調査している自然史科学研究センターの安藤喬平さんをお尋ねし、お話を伺いました。
徳島県では初!
括り罠に掛かったツキノワグマ。
あわいひかり:今回もお忙しい中、お時間を作っていただきありがとうございます。
昨年は徳島県の小屋平でもツキノワグマがシカの有害捕獲用のくくりわなに掛かったり、那賀町でも柿の実をクマが食べていたという情報もあって、四国でもクマへの関心が高まったと思いますがいかがでしょうか?
安藤さん:今回、ツキノワグマが誤って鹿の罠に掛った木屋平は、もともとクマの生息域なんですよ。四国における熊の生息地を旧市町村単位で言うと、中心部は木頭村と木沢村、木屋平村、東祖谷村、それと物部村が私たちの認識しているクマの活動コアエリアです。徳島と高知に跨る剣山系の県境の尾根沿い、標高約800〜1300メートルぐらいから上の広葉樹が残されているエリアで活動していることが多いです。
あわいひかり:今回以外にも誤って鹿や猪の罠にクマがかかったことはあったのでしょうか?
安藤さん:徳島県ではありませんが、以前にも高知県で3回ほど錯誤捕獲があったと聞いています。今回、錯誤捕獲されたクマは、私たちが調査のために2、3ヶ月前に捕獲していたクマで、GPSは付けていないんですが、その個体が山の下に降りていった際に仕掛けてあったくくりわなに掛かってしまったというのが今回の出来事です。ただ、比較的集落に近いところで掛かっていたので、こういうクマとの想定外の移動はありえます。
※クマが出没した場所では、クマをおびき寄せていたカキノキにトタン巻きの対策を行いクマの再訪を防ぐ
あわいひかり:やはり頻繁にクマが山から降りてきているということなのでしょうか?
安藤さん:そうとは言い切れません。山を降りるリスクというのはクマ側にもありますから。もちろん、今回のように通過したときに、たまたま掛かってしまうこともありますからね。捕獲許可を得ていない鳥獣が捕獲された際には人側も適切に対応しないといけないですし、対応を誤ったら怪我をするリスクもあるという状況です。
あわいひかり:今回はたまたま木屋平付近に生息が確認されていたクマがかかってしまったということですが、四国における熊の数というのは前回お話を伺った時より増えているのでしょうか?
安藤さん:多少は増えていると推定されています。四国で生息するツキノワグマの頭数は、剣山系とその周辺の奥山を中心とした森林に30頭程度が生息していると考えられています。
あわいひかり:那賀町や木屋平のある美馬市では、何か対策を行なっているのでしょうか?
安藤さん:クマが柿の実を食べていたという那賀町では、町が主体となって対策を行なっています。
対策は自治体の管轄で、われわれは必要に応じて自治体の対応をデータなり、手法なりを提供してサポートを行なっています。
四国のクマは剣山系だけ!?
愛媛県にもいるってホント!?
あわいひかり:ところで、愛媛県にもツキノワグマがいるという噂がありますが、本当なのでしょうか?
安藤さん:そう言う方もおられますね。いるかいないか真実は分かりませんが、今のところ、生息は確認されていません。目撃情報もあるようですが、過去にはカモシカや穴熊の見間違いの情報もあったので真相は分かりかねます。ただ、クマは1日10キロほど移動することもあるので、剣山系から外へ出ていく個体がいないとも言い切れません。
あわいひかり:もしかしたら、剣山系から愛媛県に移動をしたクマがいるかも知れないということもあるのでしょうか?
安藤さん:絶対にないとは言えないでしょうね。愛媛のほうにという可能性は排除できません。ただ、なぜ今四国の個体群がここにだけいるのかというと、移動する上での個体群、例えば2、30頭の集団が外に移動する際にバリアになっている標高がちょっと低い場所に広がる人工林などです。広葉樹が残るエリアを中心に生活をしているので、生息域の低標高域にある人工林という生活しづらい環境だったり、道路や市街地など、そこを通過していくことが難しい状況だからこそ、この山域に閉じこもっていると推測できます。
あわいひかり:確かに、今いる環境が悪いものでなければ、わざわざクマもリスクを冒してまで未開の土地に移動するメリットはありませんよね?
安藤さん:そうですね。絶対ではありませんが。クマが移動する最大の目的は食料と繁殖相手の確保なのです。
四国のクマの生息環境を鑑みると、生息数に対して食料が少ないということはないと考えています。自分の活動エリアに十分な食料があり、繁殖にも適した環境があるので、数百キロ離れた土地に移動するにはコストパフォーマンスが悪いと思いますね。
しかし、たまに人間でもいるように未知の世界を目指す冒険家がツキノワグマにもいるとは思っています。
※前回に引き続き、お話をお伺いした四国自然史科学研究センターの安藤喬平さん
あわいひかり:実際にそういった事例もあるんですか?
安藤さん:北海道では2018年にオスと思われるヒグマが海を超えて利尻島に上陸して騒ぎになったことがあったそうですが、すぐに目撃情報も無くなったらしいです。繁殖期にふらっと海を渡ったものの、食繁殖相手もいないことから戻っていったと考えられているようです。
秋田県の3900頭と四国の30頭。
同じクマでも地域性を考慮した対応が必要。
あわいひかり:ところで、本州でもクマは増加傾向にあるのでしょうか?
安藤さん:個体は増えていると思います。地域によって濃淡はありますが、東北は増えています。ほとんどの都道府県で過去数十年間の推定値は増えていますね。さらに絶対値としては過小評価だった可能性も言われています。これまで何千頭としたやつが、それよりも多そうだねとか。今までは県単位で調査されたものを合算したりしていたのですが、より正確な調査が必要なんじゃないかと、昨年の事例で見直されてきたところですね。
あわいひかり:昨年、熊被害が多く寄せられた秋田県では3900頭ほどが生息していると言われています。四国の30頭と比べると約130倍のクマが四国より狭いエリアに生息しているということになりますね。
安藤さん:はい。だから、地域ごとに状況を見て、適切な対応が求められるのだと思います。生息状況や、クマと地域の関係性がそれぞれ異なる地域を一緒くたに考えて同じような対応するのは違うのではないでしょうか。
※調査のための学術捕獲で捕まえたクマ方サンプルを採取する様子
あわいひかり:安藤さんとしては、昨今のクマ被害に関してどのような感想をお持ちですか?
安藤さん:地方の過疎化や国土の大部分を占める山林等の利用様式の移り変わりなど、数十年にわたり議論されてきた社会課題がより可視化されたのではないかと感じています。
また、目撃情報やメディアの報道に過敏になるのではなく、「なぜその場所に来たのか」を起点にして考え、捕獲と併せて中長期的にはクマが人の暮らしの中に侵入した原因を除去することを進めなければ、反復的な出没は抑制できないと思います。例えば、クマを人の居住域に誘引してしまっているカキやクリなどの果樹の管理や、樹林帯から河川や水路に沿って市街地へ侵入する動線が確認されているところもあるので、今分かっている原因に対してできる範囲で整備するなどの必要性も感じます。
あわいひかり:確かに昨年はメディアの報道も過剰であったように思います。
安藤さん:東北地方を中心に、たしかに被害も多かったことから、その地域でのニュースとして情報を発信することは地域に注意を促し対策を行う際には有益な情報ですし必要と思います。しかし、全国ネットで一件一件の被害情報を毎日のように放送することは市民に過度な恐怖心を与えたと思いますし、地域の実情に沿わない理解や対応をされてしまうことに繋がった部分があると感じます。
あわいひかり:先ほどお話しされていた、秋田の3900頭と四国の30頭を一緒にするのはどうか?ということですね。
安藤さん:はい。出没や被害が深刻な地域では早急な対応が必要ですし、四国では四国の対応が必要です。クマ=危険だから場所を問わずに殺処分と言うのではなく、地域それぞれの状況を理解して適切に対応することが自然と野生動物と人が共生するために私たちが考えないといけないことではないでしょうか。
ただし、忘れてはならないのは、クマは決して安全な動物ではないということです。人の暮らしと近い場所に常に生息してしまう状況は、双方にとって良くないことです。全国でクマの被害をなくしていくために、現在クマとの問題が深刻な状況にある地域が散々苦労しながら取り組んでいる対策を参考にしながら、地域それぞれで必要な対応が実行されていくとよいと思っています。
四国でクマと遭遇するのは奇跡!?
でも、もしクマに会ってしまったら!?
あわいひかり:前回、安藤さんからお話を聞いて四国には30頭ほどしかクマがいないことを初めて知りました。あの広大な剣山系で30頭しかいないクマに遭遇することは、確率的にもほとんどないと思います。でも、山登りをする人や釣りをする人、山菜取りに出かける人からは、もしものことを考える人もいらっしゃいます。
何かアドバイスをいただけませんか?
安藤さん:四国では生息域を知っていてもクマに出会うことはほとんどないので、過剰に心配しすぎることはないと思います。もしアドバイスをするならば、まず音を出して相手に気づく余裕を与えることが大切です。また、訪問先の目撃・注意情報を事前に確認することも大切ですね。また人慣れグマを生まないためにクマを誘引する物(食料・生ゴミ等)をしっかりと管理することも重要です。これは、自分の後にそこを訪れる人たちとクマの接触を防ぐために、利用者の当たり前のマナーとして心得ておきたいところです。こうした基本を徹底することで不必要なクマとの遭遇は回避できると思います。
あわいひかり:やはりクマベルなどは有効なんですね?
安藤さん:音出しは多くの個体に有効で、警戒心の高いクマは人の気配を察すると離れる選択をします。出会い頭の接触というのは、人間側・クマ側ともに「餌に夢中」など注意が散漫な時に起きやすいと思います。
一方で、音に「寄ってくる」個体やキャンプサイトの人慣れしたクマの問題など、場所や個体の特異的な例外はありますが、高いリスクのある場所は事前の情報収集により回避できます。また、目撃情報はメディアの報道の加熱度合いに伴って増減する傾向があるので、地域の役所や団体、または訪問先の施設が発信する正しい情報を取得するのが良いと思います。
※第4回木頭クマまつりで開催した「クマ対策講座」でクマスプレーの使い方をレクチャーする様子
あわいひかり:ところで、クマに精通する安藤さんとして、昨今の報道についてどうお考えですか?
安藤さん:前にもお伝えしましたが、生物学の観点から言えば、ツキノワグマは100頭以下の集団は絶滅する可能性が高いと言われています。そう考えれば、四国のツキノワグマは絶滅に近い状況です。
昨年のようにメディアがクマ被害を過激に報道することで、四国では起こりにくいことが目下のリスクのように視聴者に誤解され、クマの存在さえ許容できない考えが浸透してしまうことを危惧しています。また、地方では様々な社会課題がある中で、クマばかりがフォーカスされて一緒に語られるべき過疎化や土地利用の変化の話、そこから漏れ出る他の鳥獣被害が隅に置かれてしまうことに疑問を感じています。そういう意味では、20年以上、野生動物の保護管理や地方から警鐘が鳴らされてきたクマ問題が社会に認知され、賛否がありつつも行政機関を中心にその具体的な対策に動き出したことは四国のみならず、全国の地方においてこれからの人と野生動物の関係性や地方の持続性を考え直すきっかけとなった側面もあると考えています。
あわいひかり:今日はお忙しい中、お時間を作っていただいてありがとうございました。
安藤さんの所属している四国自然史科学研究センターでは、毎年3月に那賀町木頭地区で「木頭クマまつり」を開催しています。四国のツキノワグマについて、もっと詳しくお知りになりたい方は、ぜひ木頭クマまつりに足を運んでいただければと思います。
※四国のクマと地域の関係性を考える「木頭クマまつり」。毎年3月に徳島県那賀町木頭地区で開催。
四国のツキノワグマに関するお問い合わせは:
NPO法人四国自然史科学研究センター
0889-40-0840
https://lutra.jp
https://islandbearproject.org
あわいひかりでは、これからも地元である観音寺市や香川県、
四国の環境にいいことに取り組む企業や団体、人をご紹介していきます。
ぜひ、お楽しみに。
-

取材・文
森近 正大(文案家)