Series 連載

『間』と書いて『あわい』と読むことをご存知でしょうか。
現代ではあまり使われない大和言葉のようですが、次のような意味があるそうです。

『間』『あわい』とは、物と物のあいだ、距離、関係性。
『間』『あわい』とは、時間と時間のあいだ、時間的隔たり。
『間』『あわい』とは、人と人の間柄、相互の関係。

そこには単なる何かと何かの間という空間ではなく、意味のある空間が存在しているような気がしませんか?
このあわいひかりでは、人と自然と、今と過去と、誰かと誰かの間(あわい)について考えていこうと思います。

大西 貴志(エコロジカルパスファインダー)

「鳥の目、虫の目、魚の目」で未来への道を探します

第14章 東のかつお、西の昆布 ― 水の硬さを決めた大地の記憶―

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営業車を走らせていると、ふと耳に飛び込んできたカーラジオの声に、思わずハンドルを握る手に力がこもることがあります。
先日も、そんな「出会い」がありました。

ラジオの向こうで興味深いお話をされていたのは、神戸大学教授でジオリブ研究所の所長も務められている巽好幸教授。
その日、巽教授が語っていたのは、日本人のアイデンティティとも言える「出汁(だし)」についてでした。

よく知られているように、関東では「かつおだし」が、関西では「昆布だし」が主流です。
これは単なる好みの違いだと思われがちですが、実はその背景には、関東と関西の「地質」の違いが深く関わっているというのです。

関東の地表を覆うのは、火山灰からなる「関東ローム層」や、利根川上流域の群馬県や栃木県などに広がる「石灰岩」の地層です。
雨水がこれらの層をくぐり抜け、広大な関東平野を流れてくる中で、ミネラル分がたっぷりと溶け込み、水は「硬水」になります。
一方で、関西の地質は粘土質が多く、ミネラル分が溶け出しにくいため、水質は硬度の低い「軟水」になりやすいという特徴があります。

実は、昆布の旨味成分は硬水の中では溶け出しにくいという性質を持っています。
そのため、硬水の関東では昆布よりも鰹節が重宝され、醤油をしっかりときかせた力強い食文化が育まれました。
対して、軟水に恵まれた関西では昆布の旨味が存分に引き出され、素材の味を活かす繊細な「薄味文化」が花開いたのです。


出典:クリタック株式会社 全国水質マップ

先生が提唱されている「美食地質学(ジオガストロミー)」という視点は、
私たちが日々何気なく口にしている「食」の背景に、壮大な大地の物語が隠れていることを教えてくれます。


ジオリブ研究所

私たちの舌が感じる「美味しい」の根源を辿っていくと、数万年、数億年という時間をかけて積み重なった「ジオ(地質)」に突き当たります。
そう思うと、いつものお吸い物の一口が、とてもドラマチックなものに感じられないでしょうか。

巽先生の著書『「美食地質学」入門~和食と日本列島の素敵な関係』(光文社新書)には、
こうした日本列島の地質と食材の素敵な関係が、科学的な視点でより詳しく解き明かされています。

「地質」や「ジオ」と聞くと、どこか遠い世界の難しい話に聞こえるかもしれません。
けれど、今日食べるお料理の味も、その向こうに大地の成り立ちが関係しています。
そんな風に「食」という窓からジオを意識してみるのも、この世界を味わい深くする素敵な方法だと思うのです。

  • 撮影

    大西 貴志(エコロジカルパスファインダー)