Series 連載

1000軒以上のカレーを食べ歩き、その多様性と歴史、店ごとの個性に魅了され続けてきた。
カレー屋の夢を実現する為、アルバイトの掛け持ちを始めたが挫折。挫折から学んだ経験と、環境への関心も持ち持続可能な未来のための取り組みをカレー業界でも促進したい。独自のスパイスカレーと瀬戸内の食材を焦点を当て連載していく。

安藤 真理子(アートディレクター)

第4話 夏の瀬戸内の潮風と、スパイス香るマテ貝カレー 〜スモークチキンが奏でる夏の味わい〜

瀬戸内の海は、夏の匂いと静かな波音に包まれている。
まだ朝の光が柔らかい時間に
本社がある香川県の有明浜ではミサさんを筆頭にマテ貝掘りに社員が集まった。

潮の引いた砂浜に足を踏み入れると、そこには小さな穴が。
その穴を目印に塩を振りかけると、
まるで魔法のようにするすると細長いマテ貝が顔を出した。


マテ貝を冷凍し東京に送った、とミサさんから連絡をもらった。
ほどなくして届いたその箱を開けると、
潮の香りとともに楽しそうにマテ貝を掘るみんなの笑顔が浮かんだ。


これでカレーを作るのか。。

数日悩んでようやく辿り着いた。
マテ貝カレーはココナッツベースにしよう。

マテ貝でカレーを作るなんて初めての試みだったけれど、
そのプリプリとした触感と磯の香りがカレーにどんな風に合うのか楽しみだった。

私はカレーを作り始めた。
スパイスの香りとマテ貝の独特の風味が混ざり合い、キッチンに漂う匂いは一層深まっていく。


あまり煮込み過ぎないよう気を遣った。

一口スプーンですくって味見をする。
初めて食べるマテ貝の味は、なんとも不思議だ。
貝特有の旨味と塩気、スパイスの効いたカレーが絶妙に調和している。
瀬戸内の海がカレーの中で息づいているようだった。

この組み合わせ、ありなんだな。
あさりとは少し違う、濃厚な出汁が出ている。

そう思いながら、皿に盛り付ける。
私もいつか、瀬戸内の砂浜で静かな波音を聞きながらマテ貝を掘りたい。

今回は特別な付け合わせもある。
後輩のタクヤさんが趣味の燻製で作った、手作りのスモークチキンだ。

彼は最近燻製に夢中で、
「ぜひカレーと一緒に食べてもらいたいです!」と、持ってきてくれた。
しっかりとしたチキンの肉質に、燻製の香ばしい香りが絡んでいる。



「え、マテ貝美味しい!見た目はアレだけど…」
別の社員は「癖も無くてカレーと合いますね!」

マテ貝の柔らかい甘みがスパイスに溶け込み、思わず「こんなに合うんだ」と感心する。
そして、スモークチキンを一緒に頬張る。
燻製の香りがカレーの味を引き立て、これまた絶妙な組み合わせだ。

「これは、ちょっとしたご馳走だな」
前日の飲み過ぎで二日酔いだった上司も機嫌が良かった。
「付き合ったら面倒な男の3Cって知ってる?クリエイターとカメラマンとスパイスからカレーを作るやつ。
最近は燻製を作る男も面倒だから付き合わない方がいいらしいよ。」


私はタクヤさんの作ったスモークチキンに感謝しながら、マテ貝カレーを存分に楽しんだ。
瀬戸内の海の香りと、燻製が一つになった食卓は、いつもとは少し違う夏の思い出になった。

次はどんな組み合わせに挑戦しようかと、また新しいアイデアが浮かんできた。



そんな高揚感とは裏腹に、東京では令和の米騒動に見舞われていた。
ど、どうしよう、、、
どこに行っても米が売ってない!


  • 文・撮影

    安藤 真理子(アートディレクター)