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イノベーションは香川県から!進化する低炭素コンクリート〈前編〉

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隅々までインフラの整った日本では、新しく大規模に何かを作ることが少なくコンクリート・セメント業界の需要は急激に減少している。しかし、CO2の排出量は日本の産業部門のうち窯業・土石製品製造業が7%(2022年度/環境省調べ)を占める。このうちの大部分がコンクリート・セメント業から排出されるもので、カーボンニュートラルを実現するには無視できない数字となっている。
コンクリート・セメント業のCO2排出量が多くなる要因として、原料の石灰石を採掘し加工する際、石に封印されていたCO2が放出されるというのがある。この放出されたCO2は、セメントがコンクリートとして硬化する際に吸収され、理論上プラスマイナスゼロになるものだが、実際はコンクリートの表面のみにしか吸収されておらず、放出されるCO2の方が多いのが現状だ。コンクリートを使えば使うほど、CO2は増えていく。解決策はどこにあるのか。
今回は、シュリンクする業界でコンクリートの可能性を模索し、低炭素コンクリートの普及に努める大成生コン株式会社(香川県三豊市)代表の三宅淳也さんにお話を伺いました。
後半はこちら(https://awaihikari.media/report/entry-141.html

低炭素コンクリートとは?


三宅さん:コンクリートの原料は、石灰石です。大雑把にいうと石灰石を燃やすとセメントになります。それに水を混ぜて固めたものがコンクリートなんです。
セメントってカタカナだから人工のなんかダメなものって思われますけど、全然そんなことはなくて、成分としては貝殻や卵の殻と同じです。炭酸カルシウムっていう物質で、脱炭素でめちゃめちゃ主要な材料になるのでちょっと気に留めておかれるといいです。
石灰石を1,400度くらいで燃やすと、熱分解されてセメントの原料である酸化カルシウムができます。と同時に、石に封印されていた二酸化炭素が飛び出していくという現象が起こります。つまり、セメントを作れば作るほど二酸化炭素がでます。しかし、セメントに水を混ぜると固まるという性質があって、逆に固まる時にはCO2をキャプチャーする性質があるんですよ。


「地球上にある炭酸カルシウムをすべて熱分解すると地球の温度は200度上昇すると言われています。それくらい石灰石は二酸化炭素を内包している。」と三宅さん。


あわいひかり:同じ質量で放出される二酸化炭素とキャプチャーされる二酸化炭素は、プラスマイナスゼロになるんでしょうか?

三宅さん:なります。ただ、コンクリートの場合に厄介なのが、二酸化炭素をキャプチャーするのは表面だけで内側はしないということ。だからそこは、二酸化炭素を抑制していく別のアプローチが必要です。


左からセメント、石灰石、石灰石を砕いた粉。


三宅さん:コンクリート業界で、二酸化炭素を減らすためにいま世界中でスタンダードなのがセメントの使用量を減らして混ぜ物をする技術。10年程前にすでに開発しつくされたものですが、いわゆる低炭素コンクリートと呼ばれるものです。
混ぜ物の主な材料は、製鉄所で排出される鉄鋼スラグ(高炉水砕スラグ)と石炭火力発電所で排出される石炭灰(フライアッシュ)です。これらを混ぜることによりCO2排出も抑えられるし、コンクリートの長期強度が増進し密度の高いコンクリートとなります。

あわいひかり:二酸化炭素を抑制できて強度も増すなら、とてもいいですね。低炭素コンクリートは日本でもスタンダードなのでしょうか?

三宅さん:いいえ。残念ながら日本の取り組みは、世界の中で最後尾を走っています。
ヨーロッパでは当たり前に法律で60%・70%混ぜるなどが規定されていて、東南アジアでも始まっているんですけど、日本では何もされていません。法律の規定がないから低炭素コンクリートが使われていないという訳ではないですが、公共工事とスーパーゼネコンに留まっています。

あわいひかり:日本が遅れている原因は、どこにあるのでしょうか。

三宅さん:環境意識が最低レベルに低いと思います。海外では、環境負荷を下げるのがゴールの一つとなっているので、海外のお客さんはエコなセメントでという発注になるけど、日本はまだ全然そこまで至ってない。環境問題がまだ自分事化されてない状況です。
この分野において、いま世界競争が繰り広げられていますが、国内ではまだ認知を得る段階で進んでいない。日本のガラパゴス化には、世界で戦っているセメントの研究者や建築会社の方たちが、極めて強い危機感を抱いていますよ。でも国民や、メディアも含めてこの現象を知らされてないから世論が向かないんですね。
危機感を持ち始めたら日本人はすごいと思うんですけど、1か0の差が凄すぎて・・・


環境により良い、新しいコンクリートを届ける新事業。


あわいひかり:そんな中で、御社はどう動かれているのでしょうか?

三宅さん:弊社だけが良くなるというのは捨てました。
日本で低炭素コンクリートが普及してない理由の一つとして、専用の混ぜるための装置を作るのにお金がかかるし、そもそも材料を供給されないからできないんだという人たちがいます。だったら、できますよということを一点突破で誰かがやればいいのかなと思って、ならばそこはリスクを取って私たちがやりますと手を挙げました。
セメントに置き換えられる材料は日鉄高炉セメント株式会社さんが持っていました。弊社は元々海沿いの立地で、日鉄高炉セメントさんと40年間お付き合いがあってその前線基地にあったんですよね。そんな好条件の生コン会社は他になかったので、めちゃめちゃラブレターを出しまくりました、僕らがやりますよと。
生コン会社だけどエコは当たり前にやる、だから日鉄高炉セメントさんが持っている戦力を我々に集中してほしいと口説きに口説いて。その結果、事業再構築補助金のグリーン枠を使って日鉄高炉セメントと連携した事業を進めることになりました。

あわいひかり:具体的には、日鉄高炉セメントさんと何をされるんですか?

三宅さん:すでに普通のセメントに対して別の材料を混ぜて同等の品質を担保する技術があるので、だったら混ぜる場所を作ればいいじゃないということで、実験レベルで準備が整って、この冬から低炭素セメントのプレミックス事業というのを始めます。
普通のセメントに加えて、混ぜる原料から開発してオーダーメイドで用途に応じたブレンドをして仲間たちに届けるというビジネスモデルです。日鉄高炉セメントと香川大学もそこに連携してくれています。簡単にいうとセメントのブレンド屋さんと思ってくれたらいいですかね。
今扱っている低炭素コンクリートは、セメントに高炉スラグなどが40%混ざった状態で運ばれてきます。セメントをより環境にいい材料に置き換えられれば、CO2はその分抑えられる訳ですが、それがこの事業で、自分たちで細かく調節できるようになる。セメントに置き換わる材料を60%・70%混ぜる時代が目の前にきています。


新しく建設されたプレミックス装置。この事業で、低炭素コンクリートの価格は今までより安く提供できるように。

日鉄高炉セメントと連携をとっているオフィス。

生コンは90分以内に使わないと硬化が始まるため、不足がないよう工事現場には少し多めに届けられる。余ったものは廃棄せず自社で型枠に流しブロックとして製品にしている。


あわいひかり:自社だけでなく、他社にも提供するんですね。

三宅さん:こういうのがないと、各社自分の専用プラントを作らないといけなくなる。非経済的だし業界全体で速やかに材料を切り替えていくのを考えるとこの形がいいと思いました。日鉄高炉セメントとしても、市場が小さい四国で実証実験できるのは、目的に適っていたそうです。
とはいえ我々の事業規模では、中四国の一部までの提供となります。業界としては、すでにこのビジネスモデルに気がついてくれた日本各地の生コン会社が、来年1月下旬に60社ほど集まって見学していくことになっています。感度の高いところでは、ビジネス的にも他より先にやらないといけないことを認識されているんですよ。

あわいひかり:原料から開発するとなると、コンクリートはもっと変わりますか?

三宅さん:原料を3種混合できるので、低炭素商品だけじゃなく機能を持ったコンクリートが作れるようになります。手投入も含めるともっと広がる。
生コンの作り方ってシンプルで、AとBを混ぜてCを作るみたいな。だったらもう少し面白がってやればいいんじゃないかなと思ったんですよね。例えば極端な話をすると、養鶏糞灰と製鋼スラグを混ぜてみて未知の材料を作るとか有機物と無機物の間を攻めるとか。生コン会社はコンクリートを作ることに集中しているんですけど、市場がシュリンクしていくならコンクリート以外のものも作れば喜んでくれるのではないかと。
今までコンクリートはコンクリート、建設業界は建設業界でまとまっていたので、それぞれ中でできることはやり尽くしている。でも例えば今、人間の街は建設業的にはやり尽くしたのかもしれないけど、それによって海に栄養が行かなくなっているのはおかしくないか?という時に、そこは誰がアップデートするの?という問題が発生している。どうやってやり直すとか、そもそも何がダメなんだっけ?となると、領域を超えてくるんですね。
環境問題って領域が全部またがっているので、そこの垣根がなくなってきているし、垣根を展開するような新技術がおそらく必要になってくる。新しい事業を通して、そこの最適解も探しています。


低炭素コンクリートの普及と、さらなる可能性を追求する大成生コン。後編では、建築の枠組みを超えて広がる環境への取り組みを取材します。
イノベーションは香川県から!進化する低炭素コンクリート〈後編〉

  • 取材

    奥田 拓己(ビジョナリーベーター)

  • 星川 雅未(アートディレクター)