Report レポート
古き良き町並みを次世代へつなぐ。「壊さず残すまちづくり」の真相を追った!
全国の地方都市が人口減少や空き家問題に直面する中、愛媛県大洲市では古民家を活用した独自のまちづくりを行い、注目を集めています。行政、金融機関、民間企業、地域住民が連携し、観光を入口に「守る」だけではなく「稼ぐ」仕組みを構築。そこから教育や産業、人材育成へと取り組みを広げ、地域再生のモデルとして、全国の同じ悩みを抱える市町からの視察が後を絶ちません。
今回は大洲市のまちづくりを牽引する一般社団法人キタ・マネジメント企画広報係 伊賀綾乃さんのお話を交えて大洲市のサステナブルなまちづくりについてご紹介したいと思います。
危機感から始まった大洲市の挑戦。
2016年、かつて城下町として栄えた大洲市で大きな動きがありました。「人口が減り、空き家となったまま放置された建物が40軒近くあり、屋根が落ちるなどのひどい状態の家も多く、近隣住民からの苦情も絶えなかったそうです。」とキタ・マネジメントの伊賀さんは振り返ります。相続した所有者の多くは県外に住み、管理が困難となった住宅は老朽化が進んでいて「取り壊したい」という相談が増えていたということです。
しかし、「古民家が立ち並ぶ、古い町並みが失われれば、大洲らしさそのものが消えてしまう。」、そんな危機感から、市職員や地域住民、金融機関が勉強会を重ね、兵庫県丹波篠山市など先進地の事例を研究しながら始まったのが「大洲らしさを活かしたまちづくり」でした。
※改修前の大洲市の古民家と現在
古民家を「負の遺産」から「資産」に変える。
まず、市の職員やボランティアの住民が中心となり、空き家の清掃や維持管理を担うNPO法人「YATSUGI」が立ち上がりました。YATSUGIは、所有者との信頼関係を築きながら、「古民家を壊さず残す」ことを目標に維持活動を始めました。その活動の延長として行われたイベントが「城下のMACHIBITO」です。100年前の賑わいを再現することをテーマに、大洲らしさを活かした催しとして大盛況。ここから、古民家再生の取り組みが加速しました。
2018年4月、バリューマネジメント株式会社、一般社団法人ノオト・株式会社NOTE、伊予銀行、大洲市で連携協定が締結され、大洲市が地域DMO(現在の一般社団法人キタ・マネジメント)を設立・運営することで、観光を軸としたまちづくりが本格的に始まりました。古民家改修のノウハウを「NOTE」が提供し、ホテル運営は「バリューマネジメント」が担当。
実際の物件交渉・賃貸管理・改修は、地域DMO「キタ・マネジメント」のグループ会社として設立された「株式会社KITA」が担当し、キタ・マネジメントは事業全体を統括するという仕組みで運営されています。
資金面では地元の伊予銀行の融資に加えて他行も参加し、大洲のまちづくりに特化したファンドを創設。総事業費は約10億円で、公的資金約5億円、民間資金約5億円。行政の財政のみでの持続は困難との認識から、宿泊収入で家賃を支払い、改修費を回収する自走モデルの構築が根幹となっています。行政だけに頼らないまちづくりは、全国各地の同じ悩みを抱える市町村から賞賛され、官民金挙げてのまちづくりのお手本となっています。
まず大洲の新たなまちづくりとして始めたのが「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」。空き家を15年間借り受けて改修し、宿泊施設として再生する事業です。家賃を返済に充てることで、行政の補助金だけに依存しない持続可能な仕組みを構築しました。現在では26棟31室の分散型ホテルとして運営され、町全体を一つのホテルに見立てた新しい観光スタイルを生み出しています。空き家の維持管理に手を焼いていた所有者の悩みを解消し、町並みを残して大洲の町をもう一度元気にしたいという住民、企業、行政の想いをカタチにした見事な事例です。「ビフォーアフターでガラッと変えるのではなく、使える部分は残し、良さを感じてもらう」ことが客室づくりのテーマだと語る伊賀さん。また、「空き家に明かりが灯れば防犯・防災効果も生まれ、実際に空き家火災による延焼を経験した地域では、「人がいること」が町を守る大きな力になっている」ともおっしゃっていました。
世界が注目!「城に泊まる」体験を提供する。
大洲市の知名度を全国区へ押し上げたのが、大洲城天守を一日一組限定で貸し切る「大洲城キャッスルステイ」です。2020年開始当初の宿泊客数は年間4〜5組だったそうですが、現在は年間20組強まで増加。累計67組のうち15組がインバウンドのお客さまということです。2023年頃から外国人観光客にも徐々に知られるようになり、海外の方にとっても特別な宿泊体験として話題になっています。
※伊予宇都宮氏が創建し、藤堂高虎などの改修を経て現在の形になったとされる大洲城
そのキャッスルステイの料金ですが、なんと132万円(税込)からで、花火などのオプションを追加すると40万〜50万円程度アップするということです。受け入れには地元の住民の方々を中心に約50名が参加し、武者行列や鉄砲隊の実演など、大規模な演出で宿泊客を殿様&お姫様としてもてなします。伊賀さんにこのキャッスルステイについてお話をお聞きすると「この事業は、単なる宿泊サービスではありません。黒子や裏方を含め50名近くが関わり、市民や農家も参加する「地域総出」のプロジェクトなんです。利益は演者への謝礼や伝統芸能の演舞費用として地元へ還元され、出演していただければいただくほど持続可能な形になるサステナブルな取り組みでもあります」と話してくださいました。実際に、運営側の利益率は約6%程度で、利益の残りを神楽・鉄砲隊の演舞機会提供や継承、保全費用へ還元し、伝統文化の持続を支えているということです。
また、メディアへの露出が増えることで市の認知度が上がり、観光客数は緩やかに上昇中。それに伴って、新規店舗などが増加して約160名の新規雇用が生まれたということです。
住民からは、当初こそ不安や反対の声があったものの、空き家に明かりが灯る安心感から好意的評価が広がり、現在では9割近くの住民が賛同しています。
また、持続可能な観光の国際認証団体である「グリーン・デスティネーションズ」が認証する「世界の持続可能な観光地アワード」では84項目中 約76%の達成率でシルバーアワードを受賞。
現在はゴールドアワードの獲得をめざして更なるまちづくりに努めているということでした。
めざすのは、「観光地」ではなく「暮らし続けられる町」。
最後に、キタ・マネジメント伊賀さんに少しお話を伺いました。
あわいひかり: ご出身はどちらですか?
伊賀さん:私は、大洲生まれ、大洲育ちです。一度、松山に出て就職しましたが、まちづくりに興味を持ったことからUターンし、現在はキタ・マネジメントで働いています。
あわいひかり:大洲の1番の魅力はどのようなところだと思いますか?
伊賀さん:そうですね。やはり、大洲の一番の魅力は『人』だと思います。知らない人にも『こんにちは』と気軽に挨拶を交わす。子どもたちも『さよなら』と言いながら帰っていく。人との交流や、『お互いさま』という気持ちがこの町には根強く残っています。そんな人の良さは大きな魅力だと思います。大洲の唯一の欠点は、盆地なので夏はめちゃくちゃ暑いんですよ。
※一般社団法人キタ・マネジメントで企画広報を担当されている伊賀綾乃さん
あわいひかり:大洲のまちづくりの成功要因は何だと思われますか?
伊賀さん:偶然が重なって成り立っている部分も大きいので、ラッキーだったと思います。でも、想いを持っている方と、そのスピード感、そして成果を出すために動ける人材がたくさん集まったことが大きかったのではないでしょうか。
何人か集まれば知恵は出てくるはずなので、「想い」と「動く」。この2点があれば、どの地域でも走り出せるのではないでしょうか。完璧な状態で走り出すことなどないと思いますから、走りながら考えていくことが大切なのではないでしょうか。
あわいひかり:たしかに、動くことは本当に大切ですし、難しいことだと思います。
今後、大洲市はどのような「動き」で更なる高みをめざされるのでしょうか?
伊賀さん:未来への展望として、私たちは「OZU 555 PROJECT」を立ち上げました。観光ではある一定の成果を上げたのですが、今後は観光だけに依存しない「まちづくり2.0」をめざしています。AIの活用やものづくり、ウェルネスなど新たな産業を育成し、地域経済の多角化にも挑戦中です。
また、「教育」にも力を入れていて、地元の小中高生に対し、まちづくりの出張授業を実施しています。「自分たちの町はいい町だ」という誇りを育む教育は、次世代にこの町を託すための重要な投資です。ほかにも台湾の事業者と連携したギャラリーのオープンなど、アートを通じた国際交流も積極的に始めています。観光客を増やすだけでなく、大洲に関わってくれる「関係人口」を増やし、移住や新たな産業へと繋げていくことが、サステナブルなまちづくりには欠かせないと思っています。
成功の秘訣は、「走りながら考える」こと。
今回大洲市のまちづくりを取材し、「お金がないからできない」「人がいないから無理だ」と諦めるのではなく、想いを持つ人が集まり、走り出すこと。
そして、走りながら出てきた問題や課題を仲間と一緒に考え、クリアしていく知恵を絞り出すこと。大洲市の事例は、どんな地域にもまだ伸びしろがあることを証明していると感じました。
「走りながら考えていく。完璧な状態で走り出すことなどない」という伊賀さんの言葉には、地方創生の現場で戦い続けている人ならではの重みを感じました
。大洲市の物語は、これからも多くの地域に勇気と希望と可能性を与え続けてくれるはずです。
大洲まちづくりに関するお問い合わせはこちら
一般社団法人キタ・マネジメント
愛媛県大洲市大洲649番地1 大洲まちの駅あさもや2F
Tel: 0893-24-7060
https://kita-m.com
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取材・文
森近 正大(文案家)