Report レポート
日本初「ゼロ・ウェイスト」を宣言した町。徳島県上勝町の真実!
徳島県上勝町は、2003年に日本で初めて「ゼロ・ウェイスト(ごみゼロ)宣言」を行った自治体として世界的に知られています。しかし、ごみゼロの町「上勝町」というイメージばかりが先行し、受け手次第では「ゼロ・ウェイスト」を町おこしの一環としか認識されていないとも考えられます。そこで、実際に上勝町に伺い、ゼロ・ウェイストについて調査してみました。
ゼロ・ウェイストの起源と真相
上勝町のゼロ・ウェイスト活動は、「SDGsを先取りした町おこし」というイメージとは大きく異なり、町の存亡をかけた苦肉の策でした。その起源は25年以上前に遡ります。かつて主産業であった林業が木材輸入の自由化などで衰退し、次に挑んだみかん栽培も大寒波で壊滅。経済的困窮が深まる中で、町は新たな活路を模索する必要に迫られていました。
ごみ処理も上勝町が抱える問題の一つで、粗大ゴミの投棄や野焼きなど、法改正によって規制が厳しくなり、処分費用も町の財政を圧迫する要因でした。時は平成の大合併で近隣の市町村は合併をしていく中、その潮流に逆らい「上勝町として残る」という自立の道を選んだ結果、人口1,300人規模でごみ処理問題を独自に解決しなければならなくなりました。一時は小型焼却炉を導入したものの、ダイオキシンの問題もあり、わずか2年で稼働停止。焼却という手段を失った町が、財政的制約の中でたどり着いた唯一の解決策が「ごみ処理にお金をかけず、売れるものは売り、徹底的に分別してコストを下げる」という、現在の分別システムの原型です。
この取り組みは2001年に始まりましたが、「ゼロ・ウェイスト」という言葉が導入されたのは2003年。来日した米国の科学者で世界的なゼロ・ウェイスト活動の推進者であるポールコネット博士(セント・ローレンス大学名誉教授)が、上勝町の活動を受けてごみの発生抑制を推奨し、宣言することを勧めたのがきっかけでした。つまり、「ごみをゼロに」という思想が先行したのではなく、町の存続活動が結果的にゼロ・ウェイストの理念と合致した、というのが真相です。
上勝町独自のリサイクルシステムについて
上勝町のリサイクルシステムは、経済的な合理性と、コミュニティの力を最大限に活かした住民参加型の仕組みによって支えられています。例えば、生ゴミは各家庭にコンポストを設置することで、微生物の力で発酵・分解し、栄養豊富な「堆肥」に変えてごみを減らすことに努めています。また、プラスチックなら「きれいなプラ」と「汚れたプラ」といった独自の分別基準を設け、細かく分類することで長期保管後にリサイクル業者に引き渡しても再資源化しやすくなります。さらにごみステーションに各品目の処理コスト(町が負担する費用)や売却価格(町の収入)を1kgあたりで明示する「コストの可視化」を行い、住民自ら持ち込んだものが町の財政にどう影響するかを視覚的に理解し、「コストのかからないきれいなプラ」を回収するために汚れなどを水洗いし、乾かして持ち込む習慣が根付いています。
この「きれいなプラ」とは、容器包装リサイクル法に基づき、生産者側がリサイクル費用を前払いしている「プラマーク」付きの容器を指します。これらを正しく分別すれば、町はほぼ運搬費のみで処理できるのです。一方で、マークのないプラスチック製品は処理に費用がかかってしまいます。この事実を知ることで住民の分別への意識と協力が促進されています。上勝町独自の分別システムが20年以上も続いている大きな要因として、ごみステーション1拠点回収での「互いの顔が見える関係性」があると思います。ごみステーションの利用者も運営スタッフもほとんどが顔見知りであるため、互いの存在が「しっかりやらなければ」という意識を生み出しています。また、分別に困るものはいつでも質問ができる環境がごみステーションにあり、持続的な協力体制を生み出していると思います。当初は町の有志によるNPOが仕組みづくりを牽引し、現在は民間会社である株式会社BIG EYE COMPANYが運営を担っていますが、住民参加の精神は一貫して受け継がれています。結果として、年間1,400万円かかると想定されていたごみ処理費用は、半分以下の約600万円にまで削減され、小さな自治体が自立して運営できる財政基盤を確立しています。
個人の価値観と「ごみ」という概念を見直す。
「上勝町のゼロ・ウェイスト活動は、単なるごみ問題の解決策ではなく、現代における「豊かさ」の価値観を問い直すことでもあります」。そう話してくださったのは、上勝町から委託を受けてゼロ・ウェイストセンターを運営している株式会社BIG EYE COMPANYのオペレーションメンバー、木佐貫拓眞さん。木佐貫さんは京都大学で、美しさや人の感性を問う「美学」を専攻。その中での学びが現在の活動に深く関わっていると言います。例えば、「ごみ」という言葉自体が、日清戦争後の工業化が進んだ1900年代以降に一般化したもので、それ以前は「チリ」や「クズ」「食べかす」など、モノの性質に応じて言葉を使い分け、その先にある循環を意識していたはずだと言います。しかし、「ごみ」という一つの言葉に集約されたことで、人は捨てた後のモノの行方への想像力を失ってしまったのではないかとおっしゃっていました。
上勝町の分別活動は、この失われた想像力を取り戻す行為と捉えることができ、44種類に細かく分別することで、モノの素材や成り立ちを意識し、「これはどうしてこうなっているのか」と考えさせるきっかけになります。自分の意思でモノを選び、不要なものと触れ合わないようにすることは、情報過多の社会において精神的な静けさをもたらす「マインドフルネス」的な効果があり、これは金銭やモノの所有を豊かさの基準としてきた価値観から、精神的な充足や人間らしい生き方を重視する新しい世代の価値観にシフトするきっかけになるのではないでしょうか。そう木佐貫さんは話していました。この活動は、地球環境のためというだけでなく、これからの時代の「豊かさ」「幸福」につながる「新しいライフスタイルの提案」にもなるのではないでしょうか。
※ゼロ・ウェイストセンターの木佐貫さん。京都大学で「美学」を専攻されていたそう。
リサイクル率80%の壁と外部への働きかけ。
14品目44種類の分別で、リサイクル率約80%という高水準を達成している上勝町ですが、その数字は近年頭打ちになっています。残りの20%は、紙おむつやペットシーツ、生理用品などの衛生用品、またスニーカーのような複数の素材が接着されたもの、塩化ビニルやゴムなどの素材で、これらは分別の努力だけではリサイクルが困難ということです。この課題を解決するため、上勝町は「内」だけの努力から、メーカーや企業といった「外」を巻き込む次のステップに移行し始めています。
2020年に策定された「第二次ゼロ・ウェイスト宣言」では、2030年までの重点目標のひとつとして、企業連携の推進を掲げています。その事例として、大手化学メーカー「花王」との連携による「使用済み紙おむつのリサイクル実証実験」があります。高齢化率50%を超える上勝町では、おむつの処分は避けられない問題でした。おむつが分別収集されている上勝町と花王が開発したリサイクル技術が結びつき、自治体レベルでの資源化の実験が実現。これは、ゼロ・ウェイストを発信しつづけ、「ごみゼロの町」としてしっかりとブランディングされたことから生まれた成果です。
また、この啓蒙活動の拠点として、2020年にオープンしたのが、ゼロ・ウェイストアクションホテル「HOTEL WHY」です。オープン当初、社員研修や環境教育の拠点として利用されてきましたが、宿泊客に上勝町で実際に行われているリデュースの取り組み(量り分けなど)や分別を体験してもらうことで、ゼロ・ウェイストの精神を実感できる唯一の施設になっています。ところで、ホテルの名称がなぜ「WHY」なのかを先出の木佐貫さんに尋ねると、「なぜ買うのか、なぜ捨てるのか、なぜ作るのか、なぜ売るのか」という四つの「なぜ」に立ち返ることを促し、モノとの向き合い方を再認識していただけるように。」ということでした。ホテル以外にも、施設内にある具体的な仕組みや展示は、その問いを日常に接続する導線であり、ここで生まれた違和感や気づきが日常の見え方を変える「きっかけ」になればと話されていました。
循環システムの現状と課題。そして将来的な構想。
では具体的に、上勝町ではどのような循環の取り組みが行われているのでしょうか。
運営①:ごみの見える化とポイント制の導入による住民参加の促進。
家庭で発生したごみは、住民がゼロ・ウェイストセンターに直接持ち込んで14品目44種類に分別しています。それぞれのごみを分別するスペースや容器には「出(支出)」と「入(収入)」が記されていて、住民が出しているごみがどのように町に対して利益や負担になっているのかを明確に視覚化しています。
また、住民の参加を促進する施策として、2014年度からポイントカード制度を導入しています。対象となる8種類のごみを持ち込むことでポイントが付与されるほか、町内の量り売りのお店の利用やレジ袋の辞退でもポイントが付与されます。貯まったポイントは商品と交換することが可能で、住民が積極的にごみステーションを利用するきっかけにもなっていました。
運営②:リユースの拠点となる「くるくるショップ」の運営。
くるくるショップは、町の分別項目の第1項目でもある「まだ使えるもの」に対応するリユース拠点です。住民がごみステーションに持ち込んだもののうち、未使用品や状態の良い品はこのカテゴリに置かれ、町内外を問わず誰でも無料で持ち帰ることができます。持ち帰る際は販売ではなく、利用者がボードに「持ち帰るモノの重さ」を記入し、月間でどれだけの資源が循環し、どれだけ廃棄を回避できたかを定量で表すという面白い運用が行われています。
運営③:広大なストックヤードと解体ワークショップの実施。
ストックヤードは、集めた資源を一旦空にしてから再配置・保管する中核的な機能を担っています。段ボールや布団などはコンテナに。また、冷蔵庫やPCなどの家電は他自治体同様に有料ですが、ここでは運搬委託費を支払えばどのようなものでも引き取り可能になっています。
また、メーカーの設計・研究担当者、大学生などを対象に、複合素材や大型生活用品の解体ワークショップを実施しています。ソファや扇風機、ベッドなどを実際に解体し、設計と廃棄の関係を体験的に学ぶ機会を提供することで、廃棄に配慮した商品の製造に役立ててもらおうと考えています。木佐貫さんによると、「特にホットカーペットは難物で、熱線が複雑に絡み、縫合ではなく接着剤で固定されているため、大人2人でも剥がせないほど手間がかかる。」ということです。この体験は「捨てる」を前提にしていない製造の現実を見える化し、製造者に認識していただくことで課題を提起するきっかけとなっています。
運営④:ゼロ・ウェイストを実際に体験できる「HOTEL WHY」
ゼロ・ウェイストアクションホテル「HOTEL WHY」は、上勝町が2020年にオープンした施設です。当初は研修や社会教育の拠点として運営され、ゼロ・ウェイストを深く体感してもらうことを目的としている一方で、一般客の利用も多く、最近では環境への意識が高いインバウンド客や、子どもの自由研究のために訪れる家族連れも増えているということです。宿泊者はごみの分別体験に参加することができ、ゼロ・ウェイストの暮らしを実践的に学ぶことができます。この「HOTEL WHY」は、単なる宿泊施設ではなく、ゼロ・ウェイストを核にした体験型施設であり、上勝町と外部の世界をつなぐ重要な役割を果たしています。
外部との連携とコンサルティング事業の展開。
現在、ゼロ・ウェイストセンターでは、「捨てる視点」に立ったモノづくりをテーマにした企業向けの研修プログラムをパッケージ化し、実施しています。参加企業の多くがリピーターとなり、新入社員や開発部の研修として利用しているということです。
さらに、上勝町で培われたゼロ・ウェイストのノウハウを「社内リサイクルの改善支援」につなげたいとコンサルティングを要請されることもあるそうです。具体的には、三菱地所さまでは、新築ビルの資源循環率を2040年までに90%以上へ引き上げる目標を掲げる一方、社内にノウハウが乏しく、着手点が不明確だったことから、ゼロ・ウェイストセンターのスタッフが参画して、コンサルティングを行っている事例もあります。わずか人口1,300人ほどの町の知見が、大都市の資源循環率を改善することにつながっていることも興味深いと思います。
川上からでなく、川下から思考するプロダクトを。
最後に、ゼロ・ウェイストセンターの木佐貫さんに、これからの社会や企業に求めることをお尋ねしたところ、下記のようなお答えをいただきました。
「これから重要な視点となってくることは、“捨てることをどれだけ見込んだ製品づくりができるか”ということだと思います。具体的には、個包装を極力減らして一つの大きなパッケージにまとめたり、洗剤の詰替え用パウチのように中を洗いにくいものは、消費者にハサミで切るなどの手間を強いるため、展開しやすく、水通しの良い形状にしたりすることなどが求められると思います。また、二重構造の醤油ボトルのように、機能性は高いが分解できない製品は、分別を知る住民からは敬遠される傾向にあります。一方で、納豆のタレが蓋と一体化し、フィルムや小袋を削減した商品などは捨てる手間を減らすことから高く評価され、町内での購買率も高いです。
長期的な視点として“そもそも分別が不要になる素材”への転換が必要だと思います。生ゴミをコンポストで土に還す文化が根付いている上勝町では、パッケージ自体が土に還る生分解性の素材であれば、消費者の負担を劇的に減らすことができます。コストの問題は大きいとは思いますが、消費者の環境意識が高まれば、多少価格が上がっても環境配慮型製品を選ぶという市場原理が働き、メーカーの変革を後押しする可能性があると考えています。」
木佐貫さんのお話をお聞きして、今後は生産者が「出口」を想像し、消費者の手間を減らす工夫を凝らすことが、今後の製品開発において極めて重要であるという考えに辿り着きました。
サステナブルな社会を実現するため、さらに環境への意識も、制度も高めていく必要がある中で、上勝町のゼロ・ウェイストの取り組みは大きなヒントになると確信しました。
ぜひ、上勝町へ足を運び、ゼロ・ウェイストを体験することを強くおすすめします。
上勝町ゼロ・ウェイストセンターおよび
ゼロ・ウェイストアクションホテル “HOTEL WHY”に関するお問い合わせは:
株式会社BIG EYE COMPANY
徳島県勝浦郡上勝町大字福原字下日浦7番地2
https://why-kamikatsu.jp
あわいひかりでは、これからも地元である観音寺市や香川県、
四国の環境にいいことに取り組む企業や団体、人をご紹介していきます。
ぜひ、お楽しみに。
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取材・文
森近 正大(文案家)