Report レポート
私たちの生活を支える道路や建物。その基礎をつくるのに欠かせないのが砕石。砕石は、天然の岩石を山などから採取し、用途に応じて機械で粉砕・選別し作られます。コンクリートは砕石をセメントで接着してできるもの、アスファルト舗装は砕石をアスファルトで接着してできるもので、砕石は、土木・建築分野に不可欠な資材なのです。
愛媛県新居浜市で60年以上にわたり砕石業を営む西日本砕石株式会社は、戦後から県内産業の発展を支えてきた企業の一つです。そんな西日本砕石がいま取り組んでいるのが、石炭火力発電所と大手飲料メーカーの工場から出る廃棄物を原料とした堆肥づくり。なぜ、山から石を採取・加工販売している会社が、農業で必要な土をつくるための堆肥をつくっているのか。
西日本砕石株式会社 代表の岡寛さんと、耕力農園株式会社 農園長の中村隆宏さんにお話を伺いました。
地域の発展を陰で支えてきた砕石業の現状
高度経済成長期以降、インフラ整備とともに拡大してきた砕石需要ですが、2009年の政権交代を機に流れが変わります。鳩山由紀夫氏が率いた民主党政権では「コンクリートから人へ」という方針が掲げられ、道路や橋などの公共工事の予算を見直し、大型の建設計画が縮小・再検討される動きが全国的に広がった。
それにより西日本砕石でも、先行きを見通しづらい時期が続きました。週2日だけ稼働し、残りは休業するような状態で、雇用調整助成金などの制度を使わざるを得ないくらい疲弊。岡さんは、この状況を何とかしなければならないと頭を悩ませていたそう。
そんな折、取引先の電力会社から、砕石に混ぜて使用していた「クリンカアッシュ(クリンカ)」を別の用途で利用できないかと相談を受けた。
クリンカアッシュとは、石炭火力発電の過程で発生する石炭灰の一種。石炭灰は、石炭を燃やす際、ガスと共に飛散するフライアッシュと、炉の底に溶岩のように溶け落ちるクリンカアッシュの2種類がある。以前取材した、大成生コンの低炭素コンクリートでは、フライアッシュを活用していた。
西日本砕石では以前より、リサイクルの一環としてクリンカアッシュを引き取り、道路の下地材として砕石に混ぜ、再利用していた。しかし当時、砕石需要が激減し、クリンカアッシュの利用量も減少。
リサイクル資源は、使われなければただの廃棄物になってしまう。廃棄物のクリンカアッシュは埋め立て処分されるが、処分場にも限りがあり、電力会社も困っていたそうだ。
クリンカアッシュとは?余剰資源の活用を探る
岡さんは相談を受ける以前から、電力会社からクリンカアッシュは無害で植物にとってすごく良いものだと話を聞いていた。実際にインターネットで調べてみると、電力会社がいう通りすごく良いとたくさん出てきた。しかし、「本当に?」という疑問は解けなかった。それで、愛媛大学農学部の上野秀人教授のもとに素材を持ち込むことにしたそうです。
それから3年間、本当に無害で植物に良い素材なのか共同研究を進め、上野教授に「30年間、鶏糞や竹チップ、飲料メーカーの食品残渣とかいろんな素材で土壌の研究をしてきたけれど、今までで一番結果が良い。」とお墨付きをもらった。
クリンカアッシュ。孔(あな)がたくさん空いており多孔質なことがわかる。
クリンカアッシュは、もともと石炭で、石炭とは、植物が堆積し腐敗分解されず炭化したもの。植物化石とも呼ばれ、植物が必要とするケイ酸(珪酸)やミネラル分をたくさん含む。その石炭を燃やしてできたクリンカアッシュも、ケイ酸やミネラル分をたくさん含みます。なおかつ多孔質で、表面や内部に細かな孔(あな)があるため、水はけを良くしながらも一定の水分を保持できる素材だということがわかった。そこからどんな植物により適しているかなど実証実験を経て、岡さんは販売に向けて動いた。
しかし、販売は難しく、成分や試験結果が示されても「石炭灰」という言葉に抵抗を感じる人が少なくなかったという。農業の現場を知らずに堆肥を売るのは難しいと感じた岡さんは、そこから3年間、有機農業の勉強会に通い、土づくりや栽培について学んだ。
茶殻との組み合わせが生んだ可能性
肥料としてのクリンカアッシュの販売がうまく進まないなか、大学の研究室には県内の飲料工場から、廃棄物である茶殻の活用相談も寄せられていた。茶殻は水分が多く、そのまま堆肥にすると腐敗して扱いにくい素材だった。そこで、クリンカアッシュとあわせる実験が行われ、多孔質なクリンカアッシュの通気性により、好気発酵が安定することが確認された。
無機物のクリンカアッシュに、有機物である茶殻を加えることにより、含有する栄養も増え、さらに微生物が活発に働く堆肥となった。それにより、適する農作物の幅も広がった。こうして偶然にも、近隣の工場からでる廃棄物だけで堆肥が完成した。
現在では、独自に改良を重ね、食品廃棄物として茶殻、茶殻と同じ工場からでるコーヒーかす、地元の生産者さんから廃棄される椎茸の廃菌床、火力発電廃棄物としてクリンカが、原料となっている。
堆肥製造を開始した頃は、会社に運び込まれる原料を、岡さんが発酵の様子を見ながら毎日ショベルカーで撹拌しながら作っていた。まさに手作りだ。農業の勉強会に参加することで知り合いができ、堆肥をつかってくれる農家さんも増え、ついには堆肥の製造が追いつかなくなった。
そのため2022年に、砕石場の敷地内に堆肥の製造を機械化できる堆肥プラントを建設。同時に、近隣の耕作放棄地を整え、実証農場として自社でも堆肥を使った野菜の栽培を開始した。農地取得は通常の企業では難しく、この時、耕力農園株式会社が立ち上げられた。完成した堆肥の販売元でもある。
「土づくりは良い堆肥がないとできない。良い堆肥がある土地には、良い野菜が育つ。そうしてそこが、おいしい野菜の産地になっていく。」と、農園長の中村さん。
中村さんは、もともと岡さんが通っていた勉強会の講師で、10年以上前から有機農業の指導に携わる。岡さんと出会った頃は県外に住んでいたが、岡さんの行動力と作られる堆肥の良さに惹かれ、耕力農園への入社と愛媛県への移住を決めた。良い野菜を作るために、堆肥や肥料を遠くから運んでくるというのは、コストが増えるし環境にもよろしくない。地元にあるもので安定的に原料が供給され、良い堆肥を作れる人がいて、それで農家さんを支えるという流れをずっと作りたかったそう。
堆肥をショベルカーで手作りしていた時は、1ヶ月に3〜4tを作るのが限界だったが、プラントが建設されて月60tほど作れるようになった。作った堆肥は、春、夏、秋と、種や苗を植える前の決まった時期に、出荷されていくそうだ。
プラントの仕組みは、実に簡単。細長いプラントの入り口に、茶殻、コーヒーかす、椎茸の廃菌床などの原材料をトラックで運び込み、撒く。そこに細かく砕いたクリンカアッシュと、種菌となる完成した堆肥をいれるだけ。
細長いプラントを往復する攪拌機により、混ぜ合わされた原料は、茶殻の水分と種菌の微生物の働きでプラントの奥に行くごとに好気発酵が進んでいく。発酵具合は、空気を送り込むことで調整しているそう。それ以外は、気温管理も加水も不要。廃棄物も一切出ない。原料がプラントの奥に移動するのは、かき混ぜる際の反動を利用していて、必要なのは、攪拌機や原料を運ぶ重機とコンプレッサーの燃料だけだ。発酵しているので何かの匂いは少しあるが、原料が全て植物性なので、気にはならない。原料となる廃棄物以外の余計なものは何も足さず何も引かず、作り方までまったく無駄がない。
食品由来の原料は、いずれも大手企業と地元の生産者が管理しているものなので、栽培工程が明確。クリンカアッシュにおいては、石炭の産地が変わるごとに有害物質が含まれていないか検査され問題のないものだけを使用している。そのため、出来上がった堆肥は、「耕力堆肥」と名付けられ、有機農産物のJAS規格に適合する資材として登録されている。
西日本砕石が描く地産地消の未来
今後の展開について岡さんは、まず新居浜市の学校給食で地元の有機野菜を使ってもらうことを考えているそう。給食を通じて、有機野菜が日常の当たり前になることを目指す。その先の大きな目標として、新居浜市がオーガニックビレッジ宣言を掲げられるまでに有機農業を広め、有機農業で農家さんが持続的に収益を上げられる仕組みに貢献したいと語る。
砕石業については、愛媛県砕石工業組合の代表理事も務められる岡さん。以前より県外産の砕石骨材が県内で使用されることに危機感をもつ。砕石業は、現代のインフラ整備を下支えする重要な資材。そのため、環境と防災の面から地産地消を推奨している。
まずは、環境面。現在県外から運んできている砕石を県内産に変えるだけで、運搬時のCO2が30%減になる試算だ。環境破壊を伴う仕事だからこそ、できるだけ環境のことを考えているそう。
防災面は、2011年の東日本大震災では、道路が寸断された地域で人命を救助するため、まず重機や救急車が通れる道を確保する必要があった。砕石を敷き、地面を安定させることで仮設の通行路がつくられた。砂利道なら、砕石があれば、地震により道路に1mの段差ができても10分あれば直すことができる。岡さんは、実際に被災地に赴き「最初に人命救助を支えたのは砕石だ」と現地の方から教わったそうだ。
愛媛県は、今後発生すると予想されている南海トラフ地震の想定エリア。地産地消にすることで、今ある砕石業が守られるからこそ、緊急時に対応できるということだ。
西日本砕石の取り組む砕石業と農業の共通項は、地域循環。西日本砕石としては、他のエリアまで仕事を広げる考えはないそう。それぞれがその土地土地に存在して、役目を担うことが重要と考えている。堆肥づくりは、砕石機と火力発電所と茶殻があれば再現が可能だ。ノウハウを自社で独占するつもりはなく、取り組みが全国に広がっていくことを望まれている。
こうした地域循環(サーキュラーエコノミー)を軸に据えた取り組みは、農林水産省が掲げる「みどりの食料システム戦略」とも重なり、これからの地域づくりに新たな可能性を示している。
※有機農業とは、化学的に合成された肥料及び農薬や遺伝子組換え技術を利用せず、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減して行われる農業のこと。
※みどりの食料システム戦略とは、地域の持続可能な食料システムの確立を目標に、2050年に向けて農林水産省が推し進める施策( https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/ )。
参考:愛媛県砕石工業組合https://www.ehime-saiseki.jp
-

取材・文
星川 雅未(アートディレクター)