Series 連載

『間』と書いて『あわい』と読むことをご存知でしょうか。
現代ではあまり使われない大和言葉のようですが、次のような意味があるそうです。

『間』『あわい』とは、物と物のあいだ、距離、関係性。
『間』『あわい』とは、時間と時間のあいだ、時間的隔たり。
『間』『あわい』とは、人と人の間柄、相互の関係。

そこには単なる何かと何かの間という空間ではなく、意味のある空間が存在しているような気がしませんか?
このあわいひかりでは、人と自然と、今と過去と、誰かと誰かの間(あわい)について考えていこうと思います。

大西 貴志(エコロジカルパスファインダー)

「鳥の目、虫の目、魚の目」で未来への道を探します

第 8 章 創業280有余年。11代続くお酢とジオ

先日、香川県三豊市仁尾町にあるお酢の醸造所を見学させていただきました。
訪問したのは『仁尾酢』で有名な中橋造酢さん。瀬戸内海の燧灘に面した仁尾町で寛保元年(1741年)に創業し、現在社長を務める中橋康一社長で11代目にあたるそうです。


『仁尾酢』は中橋社長と奥様のお二人で作っています

この中橋造酢さんで作られる『仁尾酢』は、創業以来280年間わたり蔵に住み着く『仁尾酢の菌』と、伝統的な『杉樽』によって作られます。

その製造工程は、機械で空気を送り込んで強制的に発酵を促す効率的な製法とは異なり、約2ヶ月をかけて酢酸菌の力だけでゆっくりと発酵をすすめる昔ながらの手法で行われます。


建物の中には杉樽が並びます

発酵は空調設備のない蔵で行われるため、気温が下がる冬場は、酢酸菌の活動が弱らないように杉樽に菰(こも)や筵(むしろ)を巻いて温度が下がるのを防ぐそうです。
お酢を絞った後も、1~2年間かけてお酢を静かに寝かせることで、澄んだお酢が出来上がります。
こうして出来上がった『仁尾酢』はしっかりした酸味の中にまろやかさの残る味で、どんな料理にもよく合う美味しいお酢に仕上がるそうです。

では、この『仁尾酢』とジオの関係を考えてみましょう。


仁尾は燧灘に開けた町でした

この中橋造酢さんのある仁尾は、瀬戸内海の穏やかな燧灘に面しています。
そのため、真冬でも海水温の影響で気温が下がりにくく、寒さを嫌うお酢の発酵に適していたのかもしれません。

また大蔦島・小蔦島という2つの島に守られた仁尾港は天然の良港でもありました。
そのお陰で仁尾では古くから海運業が発達し、原材料の仕入れや出来上がったお酢の出荷にも適していました。
当時の仁尾ではお酢だけでなく醤油や日本酒の醸造元に加え、油や肥料・お茶等の問屋が軒を連ねて大変賑わっていたそうです。


仁尾酢を仕込む井戸水

さて、この中橋造酢さんでは、お酢の仕込みに井戸水を使います。
その井戸水は蔵の敷地内の井戸から汲み上げられます。
この井戸の水はお酢の醸造に適した真水なのですが、中橋社長によると、海側に道路を一本隔てた地区になると、井戸を掘っても海水が出てきてしまうそうです。
今でこそ埋立てが進み、海岸前は遠く離れたところにありますが、創業当時、この蔵は海のすぐ近くに建てられていたのでしょう。


現在、香川県ではお酢の醸造元は中橋造酢を含めわずか2軒しか残っていないそうです。
スーパーに行けば、大手メーカーのお酢を手軽に手に入れることができますが、もしお酢を買い求めることがあれば、ぜひこのジオと瀬戸内の気候が育んだ地元のお酢も探してみてください。

中橋造酢さんWEBサイト

  • 撮影

    大西 貴志(エコロジカルパスファインダー)