Series 連載
1000軒以上のカレーを食べ歩き、その多様性と歴史、店ごとの個性に魅了され続けてきた。
カレー屋の夢を実現する為、アルバイトの掛け持ちを始めたが挫折。挫折から学んだ経験と、環境への関心も持ち持続可能な未来のための取り組みをカレー業界でも促進したい。独自のスパイスカレーと瀬戸内の食材を焦点を当て連載していく。
安藤 真理子(アートディレクター)
大きなかぼちゃは本社で働くマコトさんからの贈り物。
マコトさん家の広大な畑には、色とりどりの野菜たちが揺れている。
一緒に育った野菜達を見守るように、燕たちが寄り添っている。
この場所には、自然のリズムと人々の想いが織りなす豊かな物語が息づいていると感じた。
しかし、どんなに丹精込めて育てた作物も、すべてを使い切ることは難しい。
余った野菜がフードロスになってしまうという現実がある。
そんなマコトさん家の畑で収穫されたかぼちゃを使い、
素材を生かしたシンプルな「かぼちゃの豆カレー」を作ることにした。
大きなかぼちゃに包丁を入れるとずっしりと重く、
硬い実からは甘い香りがほんのりと広がった。
しっかり炒めた玉ねぎとカレーのスパイスが香り立つ中で
まろやかな口当たりとなるかぼちゃと豆が溶け合う。
最高のコンビネーションだ。
仕上げにバターを入れ、味を整えたら完成。
もう一種類、和のエッセンスを効かせた優しいかぼちゃカレーとは対照的な
パンチの効いたカレーを考えた。
香り高い実山椒をたっぷりと使ったポークキーマカレーだ。
実山椒は、さわやかな辛味とほのかな苦味が特徴で、
口の中で弾けるたびにその存在感を主張してくる。
じっくりと炒めた豚ひき肉に、隠し味として加えた味噌がコクを深め、
全体をまろやかにまとめ上げる。
そして仕上げに、粉山椒をひと振り。
ふわっと立ち上る香りが、和の風情をさらに引き立ててくれる。
一口ごとに広がる、スパイスと和の調和。
実山椒のフレッシュな刺激と、味噌の奥深い旨みが織りなすこのカレーは、
まさに日本の夏を感じさせるカレーだ。
本社から届いた玉ネギと人参を使ったアチャールが
ピリリとした独自の酸味を添える。
二種類のカレーが食欲をそそる色とりどりの野菜たちと踊る。
単品で味わうもよし。
混ぜるもよし。
前日の飲み過ぎで二日酔いだった上司が
「この細長い米、クセが強すぎて嫌いだ。普通の米が良いんだけど…。」
とぶつぶつ文句を言いながら食べていた。
実家の親も普段食べ慣れないものを作って出すと文句を言って食べてくれない。
そんなところだ。
みんなが美味しく食べられることを次回の課題にすることにした。
「かぼちゃが濃厚で美味い!」「2種類一緒に食べても美味しい〜」
と食べながら話す東京営業所のみんなの声が聞こえ、私も笑顔に。
カレーを通じて、社員達にも季節の移ろいと土地の豊かさが届いたようだ。
暑さが続く8月の後半に差し掛かった頃、香川本社からダンボールが届いた。
開けてみると、細長い貝が冷凍されて届いた。
これはマテ貝?
初めて手にしたまるで小さな竹筒のようなその姿はどんな味がするんだろう。
このマテ貝でカレーを作ってみようじゃないか!
未知なるものとの出会いが、好奇心と小さな冒険をもたらしてくれるのだ。
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文・撮影
安藤 真理子(アートディレクター)