Report レポート

令和2年8月、香川県三豊市の仁尾町漁業協同組合と粟島漁業協同組合、西詫間漁業協同組合の3組合が合併して誕生した三豊市漁業協同組合。漁獲量の減少や組合員の高齢化など、三豊市のみならず、全国的にも問題となっている水産業の低迷をなんとかしようと立ち上がった三豊市漁業協同組合の組合員たちの活動を取材してきました。
今やらないと、漁業に未来はない!
令和2年8月1日に三豊市の3つの漁業共同組合が合併して誕生した三豊市漁業協同組合。合併後の会合で組合員から発せられた言葉には、今の漁業に対する不満や未来への不安ばかりが耳についたと漁協で参事を務められている川上泰生さんは言います。
「最近は魚が取れないから、油代にもならない。これでは、漁師は続けられない。」そのような意見が多くの組合員から上がったそう。
実際に漁協が予算を費やして稚魚の放流を行っても、漁獲高として効果が数字には表れていない状況の中、その改善策をインターネットで検索していた時に、偶然知ったのが福岡県のトリゼンクオリティオーシャンズが広島大学と共同で開発し、販売している海専用の肥料「MOFU-DX」でした。トリゼンクオリティオーシャンズは、九州を拠点に養鶏から販売まで行うトリゼンフーズの系列会社で、トリゼンフーズで提供される鶏の飼育過程で発生する糞などの有機物に、天然由来の成分を混ぜてつくられた海用肥料がMOFU-DXです。
参事は肥料を海に撒くことで、魚やイカの産卵床であるアマモなどの海藻を増やし、産卵数を増やすとともに、放流した幼魚が隠れる場所を作らないといけないと考え、令和2年度の総会後の理事会で、三豊市仁尾にかつては豊富にあったアマモの生育地にMOFU-DXを散布する提案を行ったそうです。
「今は海がきれいになりすぎて、力のない海になっている。それをMOFU-DXという技術を使って改善していこう。そうしなければ漁業に未来はない」と投げかけました。
しかし、そこから約1年の間何の反応もなかったこともあり、再度理事会に「やらなければ、今後漁獲量など先細りしかない。だからやってみよう」と提案したところ、1人の役員と漁師である組合長が賛同してくれて、MOFU-DXの散布が決まりました。

市や県を巻き込み、豊かな海の再生開始。
MOFU-DXの海への散布は決まりましたが、漁業協同組合だけでは資金力に限りがあるため、三豊市農林水産課へ要望書を提出しようということとなり、当時の農林水産課長(現、農林水産部長)に取り組みの意義や効果についての説明に伺ったといいます。
「今、三豊市は父母ヶ浜のきれいな海に観光客が多く訪れているのに、その横の方で鶏糞を撒くという要望を出すのはさすがに勇気がいった。」とも。しかし、三豊市における水産業の現状やMOFU-DXのこと、今後の水産業についての想いを伝えた結果、「熱意は十分感じました!ぜひ、やりましょう!そして、三豊市だけではなく、香川県水産課にも協力してもらって」と言ってくれ、応援してくれたといいます。
早速、トリゼンクオリティオーシャンズから肥料を分けてもらい、三豊市仁尾町にある蔦島の周辺に、鉄筋かごの中にMOFU-DX500個を入れて沈めました。
参事曰く、「応援してもらっているので、結果を出さないと次の年に繋がらない。絶対に失敗できない。」という思いでのスタートとなりました。
半年後に結果を確認したところ、新しく育ったアマモの密度はそこそこだったが、面積は確実に広くなっていたということで、初年度としては満足な結果が出たということでした。
継続こそ、次代の海のチカラになる。
令和5年は、蔦島の南端から父母ヶ浜?の方に向かってアマモの種子12,000粒を播種したが、直接蒔くと潮に流れ成長観察ができないと思い、翌年は12月から3月にかけて特定海域を定めMOFU-DXと種子を混ぜたものをその海域に播種し、4月に追肥したそうです。
肥料を撒くにあたって注意すべきは、海水温が上がる6・7月に肥料を海の中に残さないようにすることで、残すと赤潮の原因になるのだそうです。仁尾地区と西詫間地区?(大浜と生里)で合計300kg施肥を行った結果、蔦島周辺に蒔いた種子が、車海老養殖場の取水口の辺り地名に置き換えるか車海老養殖場の前に地名を追加した方がわかりやすいかもしれませんに流れつき、1本だけあったアマモがかなり増えたということでした。また、西詫間の漁業組合事務所のすぐ裏にある岩壁では、あおさが生えてきて、ガラ藻も増えたという成果を見ることができました。
この活動を継続するにあたって課題となったのが、アマモの種子の確保でした。一定の深さで育ったアマモは、毎年6月ごろになると自然に切れて、海に流されます。切れたアマモには種子が付いていて、それを集めて試験場で種子を採取します。しかし、流れる藻を採取するには県の許可が必要で、その許可を取っている間に流れ藻の時期が終わり、種子が採取できない事態になってしまったことも。
しかし、香川県水産課、香川県漁連の協力のもと、令和5年は12,000粒だった種子は、令和6年には27,000粒が集まりました。その効果もあってか潜水調査の結果、水産動物が1年前よりも多く確認できたということです。「アマモの増加で多少は増えているように思うが、偶然なのかどうか、まだ判断はできない」と慎重に結果を分析していました。
今後の課題としては、放流した稚魚が隠れるところがないと捕食されてしまうので、アマモのほかにも、隠れる場を増やすことが重要。昔は蔦島の周りに色々な種類の海藻があったそうなので、そういったものも含めて環境改善をすることによって豊かな三豊の海が戻ってくると思う。と話してくださいました。
先月、この活動を聞き、あわいひかりでも取材させていただいた大成生コンの三宅社長(元プロカメラマン)が、潜水調査を行い、アマモを含めて、たくさんの海藻が生い茂る様子を映像に記録してくれたそうです。
海が綺麗なことと、海が豊かなことは違う。
近年は、浄化槽の設置や下水道の整備、砂防ダムの建設など、排水処理や治水整備が進んだことで、見た目には綺麗な海になりました。しかし、海に注がれていた栄養が不足し、海に住む生物にとっては豊かとは言えない海になっていると言います。
山や街から海に排出される栄養素が、海藻を育て、プランクトンの餌となり、そして魚や貝などの海洋の生き物を育ててきました。
今後は、市や県と協力し、浅瀬で稚魚が育つ環境づくりをすすめ、メバルやキジハタ、タケノコメバルなど、三豊の海に昔からいる魚種を増やす努力を行ったり、魚の隠れる場所を増やすことで放流した魚の成長を後押ししたりするということでした。
また、日程が合えば三豊市の小学2年生に学校行事として放流を実施することも可能なので、海や魚について興味を持ってもらうきっかけ作りを積極的にやっていきたいと話してくださいました。
1次産業の衰退は、国の衰退にもつながる重要な問題です。だからこそ、香川県内はもとより各浜でも同様の活動を行い、海の環境を変えていくことが未来の漁業にとって必要なのだと思います。「いつかどこかで取り組まなければいけない課題なので、まず自分達が実践してモデルケースを作っていく。そうすれば、他のエリアにもつながると思うんです。自分たちの漁場は、自分たちで守る。地元の漁業者がその気にならないといけない。」と熱い想いを最後に語ってくださいました。
香川県の池田知事も瀬戸内海の環境を積極的に改善していくと述べられていますし、綺麗なだけでなく豊かな海を作るための活動は、今後、さまざまなところに広がっていくと思います。
以前から三豊市は農業に力を注いでいる地域でしたが、今後は水産業も三豊市の大きな産業になる可能性が十分にあると感じました。新しい取り組みにチャレンジする三豊市漁業協同組合の活動に、今後も期待したいと思います。
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取材・文
森本 未沙(海育ちのエバンジェリスト)