Report レポート
2020年7月1日に開始したレジ袋の有料化。環境対策のひとつとして始まったが、4年経った今でもその有用性を問う声が聞こえる。不便を押してでも進めるべきことなのか?効果はあったか?良いことをやっている風なだけではないか?デメリットの方が大きかったのでは?など。正直この疑問に正確に答えられる方がどれだけいるだろう。
この記事では、時間が経った今、レジ袋を有料化することで実現したいことは何だったのか、それにより何が起こったかなどを振り返りながら検証します。
レジ袋有料化義務化とは?
レジ袋有料化は、廃プラスチックの有効利用率の向上、海洋プラスチックなどによる環境汚染の抑制、世界で2番目に多い一人当たりの容器包装廃棄量などを改善するため2019年(令和元年)5月に策定された「プラスチック資源循環戦略」のマイルストーンを実現するためにできた制度のひとつだ。
経済産業省と環境省が2019年12月に出したプラスチック製買物袋有料化実施ガイドラインには、「重点戦略の1つとしてリデュース等の徹底を位置づけ、その取組の一環として「レジ袋有料化義務化(無料配布禁止等)」を通じて消費者のライフスタイル変革を促すこととした。」とある。
つまり、環境対策としてレジ袋は有料化されたが、プラスチックの直接的な削減というよりも、レジ袋が有料になることにより無意識に消費しているプラスチック製品やプラスチックごみを取り巻く様々な問題について考え意識を高め、行動を見直すきっかけを作るための制度なのだ。
回りくどく聞こえるだろう。書いていても回りくどい。この回りくどさが、ポーズだけで不便を強いる制度だと誤解を生み、当時の環境大臣である小泉進次郎氏への批判のひとつとなった。補足すると、制度導入を決定した時の大臣は原田義昭氏である。
制度の目的はどうあれ、環境のことを考えるとバイオマスプラスチックやリサイクル原料などのより配慮された素材への切り替えや、そもそも使用する資源量を減らし廃棄を減らしていくことは必要だ。また、より多様な環境で機能する生分解性も今まで以上に求められるだろう。
特に、海洋ごみ問題から考えるとレジ袋の存在は厄介であり、関西広域連合の調査では、大阪湾には約300万枚のレジ袋が沈んでいるそうだ。レジ袋は他のプラスチック製品と比べ薄いため、自然環境にさらされると原型を留めず小さく崩れてしまう。しかし分子レベルまで分解されるわけではないので、マイクロプラスチック化し海底に堆積し続けている。たとえ生分解性のものであっても、海底の条件で分解されることは難しく、海底に沈んだマイクロプラスチックの回収は現時点では不可能に近い。マイクロプラスチックは魚など生物の体内に取り込まれると有害で、生態系に及ぼす影響が懸念されているため、国際的な重要課題となっている。
多くの方は、レジ袋を海になど捨てていないと言うだろう。しかし、レジ袋は意図を持って捨てられる以外に、山や街などの陸地で風に飛ばされたり、雨で流れたり、正しく捨てていても見えないところで思った以上に海ごみと化しているそうだ。
レジ袋有料化義務化で起きたそれぞれの混乱。
レジ袋は、廃プラスチックの総量からすると2%ほど(レジ袋有料化前)で、直接的なプラスチックごみの削減効果は限定的だ。それにもかかわらず、レジ袋はプラスチック製品の代表として矢面に立たされる形になった。レジ袋を製造している側からすると死活問題だ。すでに業界としては、レジ袋の薄肉化(厚さを薄くすることで原料の使用量を抑えること)、バイオマスプラスチックやリサイクル原料を活用した環境配慮型レジ袋の開発と製造に取り組んでいたため、レジ袋が悪とされかねない状況に反発が生まれた。
そのため製造側からは、先行して有料化を実施している欧州と同様に、厚みがあり繰り返し使える袋や環境に配慮された素材でできた袋は有料化対象から外すことも含め検討すべきとの意見が提出された。
レジ袋を配布する側のスーパーマーケットや小売店舗の一部では早くも1995年(平成7年)にキャンペーンを実施して、マイバッグを推進する動きがあった。2002年には全国に先駆け東京都杉並区が「すぎなみ環境目的税条例」でレジ袋を有料化している。
ポスターや店内放送、キャッシュバック、ポイント還元などを実施しレジ袋辞退を推進していた店舗では、今回の制度が大きな後押しとなり50%台にとどまっていたレジ袋辞退率が83.28%(2024年度)まで上昇したという。どうやら人は、得をするより損をする方が行動の理由となるらしい。今回の制度で“有料化”という手段が取られた理由も、過去の実績から、利用者に利益が出る方法より有料にした方がレジ袋辞退率が高かったからだ。
一方、サービスの一貫として無料配布を行ってきた店舗では、どうすれば無料配布を続けられるかの議論があった。しかし、有料化対象外のレジ袋はコストが高く、レジ袋は有料だという理解が進んだ今、無料配布を続けている店舗はわずかだ。有料のレジ袋であっても、消費者の負担になるのを避けるため、従来と同じ環境配慮のないレジ袋を販売している店舗も存在する。
レジ袋有料化義務化の効果はあったのか。
日本ポリオレフィンフィルム工業組合が公開しているデータでは、ごみ袋・レジ袋の出荷状況を制度施行の前後で比べると、レジ袋の出荷量は半分以下に減少。ごみ袋においては、増減はあるものの僅かな減少となっている。制度が始まった当時、マイバッグを持参する人が増えた一方でごみ袋の需要は増えたという報道もあったが、組合の出荷量はあまり変化がみられない。
レジ袋辞退率(スーパーマーケット年次統計調査)は、1.5倍以上の増加となった。これは、先にも記載した通り、店舗だけの取り組みでは達成できなかった数値まで上昇した。関係者の話では、制度が後押しになったのは間違いないが、環境意識が進んだと理解する他に、無駄なお金をつかわないコスト意識が消費者側に強くあるのも要因と思われる。
では、この制度が目的としている「意識の向上や行動の変化」については、どうだろう。
2022年(令和4年)9月に内閣府が行なった世論調査では、レジ袋有料化や新しい法律の施工によりプラスチックごみ問題への関心や行動に変化はあったかという問いに対し58.8%の方が「プラスチックごみ問題への関心が高まり、マイバッグ・マイボトル持参やスプーン・ストローの辞退など具体的な行動を行うようになった」を選択している。レジ袋を辞退する理由については、「マイバッグを持ち歩くことが多くなったため」を選択した人が68.5%、「レジ袋を使用しないことを心がけるようになったため」を選択した人が13.8%となった。
辞退率と意識調査は他の機関や団体でも調査が行われており条件によりばらつきがあるものの、傾向は一致している。
結果、レジ袋有料化が要因の一つとして、プラスチックごみ問題への理解が進みや行動の変化があったといえるだろう。
環境にいいとは何か。
レジ袋有料化で、マイバッグを使用する人が増えた。しかし、マイバッグ1枚はレジ袋1枚より製造・運搬にかかる環境負荷が遥かに高い。国連環境計画(UNEP)「Single-use plastic bags and their alternatives」(2020年3月)によると、マイバッグは綿製で50回以上、厚手のプラスチック製で10回以上使用しないとレジ袋より環境負荷が高くなるそうだ。紙袋も同様に、一定数以上使い回さないと環境負荷は高い。また、衛生面で考えると、使い捨てできるレジ袋は優秀だ。
環境にいいとは、単純にプラスチック製品を排除すれば解決ということではなく、今まで無意識に消費してきたもの見直し資源やエネルギーの「循環」までも考えて行動することだろう。
あわいひかりでは、持続可能な社会を実現するため、環境に関する情報や選択肢を呈示し少しでも多くの人に「自分ごと」として捉えていただけるよう発信を続けたい。
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文
星川 雅未(アートディレクター)