Interview 対談・インタビュー

世界の食文化を変え、「食べる」の意味を再定義する。 香川から世界を変える次世代カンパニー 【株式会社XEN GROUP 代表取締役 高畑洋輔氏】後編

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今回の対談企画は、「あわいひかり」代表の奥田にとって【盛和塾】の後輩にあたり、香川から世界を変えるための事業に邁進する次世代カンパニー 「株式会社XEN GROUP」の高畑洋輔氏に、世界の食文化を変える画期的な技術【Water Stability System】の発明秘話や、事業承継からこれまでの紆余曲折や葛藤、そして社会課題解決への想いを伺いました。

第4章:豆腐をつくって見えてきた「次の一手」


奥田:わたしたちの「あわいひかり」もそうなんですが、環境負荷軽減とか持続可能な社会とかよく耳にするし、それをしないといけないのはわかっているんですが、どこからやるとか、どのスピードでやるとかが問われているじゃないですか。

高畑:そうなんです。実は豆腐をつくった先にその答えがありました。僕らは豆腐を機械で作るので雑菌がわかず日持ちが良くなるし、そしておいしいとなりました。そこで「もっと製造してくれ」と依頼が増え、今度は兵庫県で工場を立ち上げていくんですけど、その時に大豆を10トン使ったら10トンぐらい「おから」が出ることがわかりました。

奥田:そんなに出るんですか?

高畑:豆腐づくりはまず大豆を浸漬するんです。大豆が水を含むじゃないですか。すると10トンが12トンぐらいになるんですよ。今度はそれを搾って炊いて、搾った時に出るのが「おから」。それが産業廃棄物に指定されてて、牛さんに食べてもらおうと思っても10トンはさすがに食えない(笑)さらに搾ったとたん腐るぐらいあしが早いんです。廃棄に年間約3000万円ぐらい払っていてこれは何とかならないかと思いました。

そこで乾燥機を買ってアップサイクルして売ろう!と最初はなったんですが、その時代の乾燥機はゴミを軽くして捨てるための機械しかありませんでした。それでは乾燥品の単価が合わないので機械導入に至りません。そうしていると「洗える乾燥機」というのが出てきて、実はそれがわたしたちの機械のベースになっています。洗えるので綺麗な状態を保てますし、おから以外にも技術の転用ができると考えM&Aをしました。設計とデザインを当社でやって売り出したのが食材乾燥機「X-Dry unit」です。元々廃棄していたものをおからパウダーにアップサイクルできるので、これがまさにSDGsですとなりました。

しかし、なかなか採算が合わないこともわかってきました。思うようになかなか売れません。そこでもっとバリューチェーンの上流で、食品や食材の鮮度が保持できたら食の概念を変えられるかもしれないと気づき、そうすれば多くのバリューチェーンの常識を変えることができるのでは?と思い始めました。

第5章:食品の水分を安定させる画期的な技術「Water Stability System」の誕生


高畑:食品に最も多く含まれている成分は水で、食品内の水が品質に大きな影響を与えています。そこで、私たちは水の動きを司る“温度”に着目して装置を開発しました。従来の技術のように庫内を冷やすのではなく、食品から熱を奪って冷やす画期的な技術です。この技術で食品の表面から中心までを-0.1℃〜-1℃の温度帯に整えると、水の動きが安定し、本来のおいしさや鮮度が保たれます。この温度帯はほとんどの菌が休眠する0℃以下でありながら、食品に氷結晶ができない不思議な温度帯です。
昨年には、この状態からさらに温度を下げて品質を固定する装置も完成しました。冷凍温度帯でも氷結晶ができないので、塊肉も硬い状態で簡単にカットできたり、そのまま焼いたりできます。さらに、輸送効率の向上や、販路拡大を可能にする保管装置も開発中です。これにより、3つのステージで管理する「Water Stability System」として開発や権利化を進めています。この技術は食品分野にとどまらず、医療分野をはじめとする様々な含水物の管理に応用可能であり、社会全体を変革する基礎技術となる可能性を秘めていると考えています。



奥田:大学や大手企業など一緒にやってくれるところは探したんですか?

高畑:複数の大学が興味を持ってくれました。わたしたちとは違った視点からこの技術を応用できるのではということから研究を始めている大学や、機械性能をさらに引き上げるための研究を始めてくれたところもあります。

安くても1000万円するので小さな店舗が入れようとすると難しいとおっしゃる方がいらっしゃいますが、人を雇うためにかかる費用とそれで得られる利益を考えてもらい、この機械なら2年で十分投資回収できますよという話をしています。店舗展開されている企業で、この考えに共感いただけたところはすぐ導入していただけています。セントラルキッチンを採用している飲食チェーンなどが中心です。

この機械はとにかく使ってくれたら良さがわかります。とあるとんかつ屋チェーンの企業は、セントラルキッチンで導入してくださっていて、そこから各店舗に肉を配送しています。私から本店にもう一台導入してほしいとお願いして入れてもらいました。店舗では季節ごとの食材を取り扱っているので、それにも効果が出ると思ったんです。ご飯やキャベツなども使うと全然おいしさが違うんですよ。あとは、肉を揚げる時間が変わったり、水が出ないから油が汚れなくなって、油を変える頻度が変わったりとか。ただ美味しくなるというだけじゃなく、ロスが減ったり時間が減ったりすることにもつながりました。導入した店舗とそうでないところでバラツキが出たので全店導入するという話になり、導入計画を進めています。この機械の良さを感じてくれたところには、なくてはならない存在だと言っていただけています。

奥田:この話も環境問題だけじゃなく社会課題解決として食料問題、人手不足、過疎化など全部にまたがって貢献できそうですよね。

高畑:水は地球全体に影響するものですし、全部できると思っています。当社の機械が電力を多く使うなら環境対応ではないと思いますが、冷気だけに頼って冷やしているわけではないので、かなりエコです。
またフードロス削減や人々の健康寿命の向上にも寄与するものと思っています。


第6章:日本が海外に勝てるのは「食」しかない!


高畑:海外をいろいろ歩いてみて、日本が勝てるのは「食」しかないと思っています。
ですので、この機械は海外、主にヨーロッパへ売りに行っています。そしてまず売る前に自分たちの考え方や食に対して正しいと思うことを伝えて、理解してくれる仲間集めをしています。

奥田:海外に実際に売りに行ってみて海外の人々は具体的にどんな反応ですか?

高畑:「なんでこんなことができるんだ?」と言う反応ですね。エビを冷凍して解凍した時に彼らは尻尾を見るんです。普通だったらこの部分の色が変わるはずなのに変わっていないとなり「クレイジーだ!」みたいな。
先日、海外で活躍されている日本人シェフの方に実際に機械を見に来ていただきました。「これ食文化変わるね」と言ってくださいました。料理を実際につくっているシェフが「良い」と言ってくれると説得力が違うと思います。いわゆる一流の料理人たちは横でつながっていますしね。そして、ヨーロッパで行われる持続可能な開発のための会議でこの技術を紹介しようという話にもなりました。

奥田:世界中に本当においしい食を伝えていきたいという想いが、ホームページにある「地球上の誰一人取り残さない」というSDGsの理念にも繋がっているということですか?

高畑:食は「腹を満たす」だけじゃないということです。食べたもので自分の体が作られているので、それが自分の血となり肉となるものなのに、今は自分の腹を満たすだけの食になっていると思います。たとえば今疲れ気味なのでビタミンを摂ろうとなった時に、手早くサプリは選ぶけど食べ物を選ぶ人はまだ少ないということです。

奥田:なるほど。では高畑さんが一番この「Water Stability System」を使って欲しいと想うターゲットはどの層ですか?

高畑:何よりまず「食」にこだわってほしいと思っています。そして食にこだわりのある人に使ってもらいたい。食にこだわる人が「どうしてもこだわれない」理由がだんだんできてくるはずで、わたしたちの技術がそれを解消することができたらいいなと思います。体のことを真剣に考えてこだわっている人、こだわっている企業に使ってもらいたい。

第7章:「もったいないエンジニアリング」で日本人の自信を取り戻す


奥田:ホームページにも「モノづくりは世界を豊かにする」というコピーがありますが、この言葉を読み解いていくと「もったいないの具現化」とか「もったいないエンジニアリング」というのが出てきます。この真意はなんですか?

高畑:モノづくりって作ることだけじゃないと思うんですよ。日本はマーケティングが下手で、いいものはつくるけど価値をうまくつくりだせないと考えています。つくることができるから価値もちゃんと提供しないといけない。それができないと単なる作る人にしかなれない。それが問題なんだと僕は思っています。サービスまでできれば日本人の丁寧さや謙虚さ、努力が絶対報われるはずです。日本はそれで成長してきたわけですから。それをもう一回見直さなくてはいけない。

その中で物を消費するときに「もったいない」ということを日本人は常に気にしている。これは日本の言葉ですから。これをどうアレンジしていくのか、どう使い分けていくのかというのが重要で、僕らはそれを「エンジニアリング」と言っています。このサイクルをつくっていきたい。

昔の日本人はつくることに自信があったから元気がありました。しかし最近はつくるのも自信がない、売るのも自信がない、自信がないないばかりじゃ魅力が全然ないじゃないですか(笑)つくることで人も育つし、外も見るし、新しいことも想像する。若者が日本人としての自信を取り戻すために「もったいないエンジニアリング」を活かしていきたいと考えています。



奥田:そのひとつが「アグリテック」ということですか?

高畑:そうです。今はまだ畑があって試しにつくっているだけですが、農作物を作ることに課題が多くあると思っています。そこでどういう道具があれば便利なのかなどを考えていて、例えばいちごを収穫するならどんな機械があったほうがいいか?ということです。さらに収穫したいちごは劣化していくのですぐにパック詰めしないといけない。でもわたしたちの「Water Stability System」があれば、収穫したいちごをそのまま寝かしておいても大丈夫です。時間のバッファが生まれます。そうした一連のシステムを考案することが重要だと思います。

奥田:おもしろいですね。食材の種苗、生育管理、収穫からパック詰めまで、まさに出口まで管理するのは真の意味でSPA(製造小売業)です。そのマシナリーとデータ取得ができて最適な生育環境がわかると最強ですね。

高畑:最強ですね。どこで何が採れているとか、それこそ海域でどのくらいの温度になっているから何が採れるのかなど見えるようになると思います。

奥田:それを日本企業の「XEN GROUPがやっている」となると夢がありますね。

高畑:世界ではコールドチェーンが未発達のエリアが多いんですよね。うちの技術を使えば、自動運転やAIとも組み合わせて、そんなエリアにもコールドチェーンを構築できる可能性が生まれます。世界の注目を集めるような技術に育てていきたいと思っています。


  • 取材・文

    中田 晃博(ビジネスデザイナー)