Report レポート

地球を守ることは、 日本の農業を守ることになる!?〜バイオマスレジンホールディングスの壮大なる使命を追った!〜

非食用米を原料の一部に使用したバイオマスプラスチック「ライスレジン」。新潟県に本社を構え、ライスレジンを製造する「株式会社バイオマスレジン南魚沼」さまをお尋ねし、バイオマスプラスチックや地球環境と日本の農業のあり方について取材してきました!


はじめに株式会社バイオマスレジン南魚沼についてご紹介します。

バイオマスレジン南魚沼とは?

2007年、代表取締役CEO神谷雄仁氏がお米を活用したバイオマスプラスチックの開発を目的に創業。開発ノウハウを提携工場に委託し製造を行なってきたが、求める品質の製品が製造できなかったことから、2017年に自社での製造を開始するためバイオマスレジン南魚沼を設立。2018年春に「バイオマスレジン南魚沼」が稼働。2020年には「バイオマスレジンホールディングス」として持ち株会社化。現在は4つのグループ企業と4つのパートナー企業で構成されています。2022年、熊本の水俣市に生産拠点2ヶ所目の工場を建設。2023年には生産拠点3ヶ所目として福島県浪江町に工場を設立しました。グループ企業あわせて従業員は総勢50名。



ここからは、バイオマスレジンホールディングス執行役員の奥田真司さまに、バイオマスレジン南魚沼さまの企業目的や今後の取り組み、これからの課題などについてお話をお聞きしました。


日本型バイオマスプラスチックで、
地球の環境と日本の農業を守っていきたい。


あわいひかり:本日は私たちあわいひかりの取材をお引き受けいただき、ありがとうございます。以前から御社のことはテーブルマーク様からお聞きしていて、大変興味があったので無理なお願いをして取材させていただくことになりました。本当にありがとうございます。

奥田さま:こちらこそ、ありがとうございます。私たちの事業に興味を持っていただき、記事にして紹介していただいて本当に嬉しいです。

あわいひかり:早速ですが、なぜバイオマスプラスチックを製造するにあたってお米に着目されたのでしょうか?



奥田さま:結論から申しますと、お米は日本のどこででも栽培されていて、もっとも親しみやすく、もっとも生産を見込むことができる原料だからです。例えば、アメリカなら「トウモロコシ」を原料に使ったバイオマスプラスチックを主に製造していますし、ブラジルでは「サトウキビ」を原料としたバイオマスプラスチックが一般的です。つまり、国家戦略作物からバイオマスプラスチックが製造されているのです。日本では、トウモロコシやサトウキビに代わる穀物が「お米」だと思うんです。

あわいひかり:確かにお米であれば全国で作られていて不足する心配もありませんし、安定した原料として見込めますね。

奥田さま:はい。ですが、事業をはじめた6年ほど前には「お米をプラスチックにするとは、けしからん!」という農家さんからの意見が多かったんです。とくに弊社のある南魚沼は全国的にも知られているお米の産地ですから、相当のお叱りを受けたと社長からも聞いています。

あわいひかり:そのような反対意見がある中で、どうして地元の農家さんから信頼を得ることができたのでしょう?

奥田さま:近年、日本人のお米離れが進んでいることがありますね。若い農家さんの間では、お米を食用としてだけではなく、他のものに有効活用するのも米農家が担える役割という認識が広がったからではないでしょうか。また、社会全般にバイオマスプラスチックへの関心が高まっていることもあるのだと思います。

ライスレジンを使ったアイテムは
日用品や包装フィルムなど約800アイテムが商品化。


あわいひかり:実際にライスレジンを使って商品化しているものはどれくらいあるのでしょうか?

奥田さま:最近は、自治体のゴミ袋としての採用が増えてきていますね。2019年に、南魚沼市がライスレジンを使ったゴミ袋を導入し、2023年には魚沼市や新潟市でも採用していただいています。今年の6月からは関川村でも採用されました。
商品のパッケージとしては、2022年にテーブルマーク様にはじめて採用していただき、まだテーブルマーク様のみですね。
その他にも令和4年4月1日にプラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律が施行され、使い捨てスプーンやフォーク、ホテルで配布される歯ブラシなどでの採用が急速に進んでいます。
また、環境保護への意識が高い企業様から、石油由来のプラスチックに替わってライスレジンを使った商品に置き換わっていくことも期待されています。





あわいひかり:例えばどのような商品が石油由来のプラスチックから、ライスレジンに置き換わっているのでしょう?

奥田さま:手提げ袋などの日常的なものから、タッパーや子供が大好きなブロックのおもちゃなどもバイオマスプラスチックに置き換わってきています。現在では約800アイテムほどがリリースされています。




あわいひかり:800アイテムも!では、知らないうちに使っているかもしれませんね!

奥田さま:そうかもしれませんね。

プラスチック用のお米の確保が、
ライスレジンの普及と増産のポイントになる。


あわいひかり:そのライスレジンの原料として、実際にどのようなお米が使われているのでしょうか?

奥田さま:主には古米や破砕米といった非食用のお米ですね。破砕米も小さすぎると、品質にばらつきが発生するため、使用できる大きさに制限があるんです。また、同じ品種や同じ産地のお米を使うと品質が安定しやすいので、可能な限り原料となるお米は厳選させていただいています。

あわいひかり:では、古米や破砕米はどのようにしてライスレジンになっていくのでしょうか?

奥田さま:ライスレジンの製造工程としては、プラスチック素材数種類と古米や破砕米、そして添加剤などをブレンドして高熱で炊き上げ、お餅のような状態にします。
高温になりすぎるとお米が焦げてしまうため、温度調整がかなり重要になります。
そして、水分を乾燥させると樹脂になり、それを押し出してペレット状にカットすれば完成という簡単な工程です。





あわいひかり:ライスレジンには、どの程度の比率でお米が使われているのでしょうか?

奥田さま:最大で、ポリプロピレンベースだとお米の比率が70%、ポリエチレンベースだとお米の割合が50%くらいですね。用途やコストにより、割合を調整して製品化しているのが現状です。

あわいひかり:ポリプロピレンで70%、ポリエチレンでも50%ってかなりの比率でお米が使われているのですね!
ところで、バイオマスレジン南魚沼さまとして、今後どのようなことに注力したいと考えているのでしょうか?

奥田さま:日本政府の方針でバイオマスプラスチックの国内導入量を現在の7万トンほどから2030年に200万トンへ増やすと打ちだしています。現状では海外から輸入されるものが大半ですが、国内産のバイオマスプラスチックも増やさなければいけないと思っていますので、お米由来のライスレジンをもっともっと知っていただいて、どんどん市場を拡大していきたいと考えています。
また、冒頭にも申しましたが、お米の消費や需要が減っていることもあり、農業従事者が減ってきています。休耕田や耕作放棄地が全国で増加している問題もあります。現在は、お米をプラスチックの原料に使うなんてもったいない!という考えもありますが、ライスレジンを普及させるには安定したお米の調達が必要です。そのため、休耕田や耕作放棄地を活用して、ライスレジン用のお米作りを全国の企業や農家さんとともに開始しています。全国各地の農家さんから自分たちが作るお米を使って欲しいとの要望もあるので2030年までに、もう少し拠点を展開していきたいと考えています。

あわいひかり:ありがとうございます。現在、3つの工場でどれくらいの生産量があるのでしょうか?

奥田さま:現在ですと約1万トンのライスレジンの製造が可能ですが、海外ではサトウキビ原料だと約22.9万トン、トウモロコシ原料なら約45.7万トンのバイオマスプラスチックが製造されていますので、さらに稼働を上げていく必要があると思っています。

今ある課題の解決と新素材の開発で、
地球に、日本に、農業に貢献する企業でありたい。


あわいひかり:今後、ライスレジンを広めるにあたってどのようなことが課題だとお考えですか?

奥田さま:やはりコストが一番の課題となっています。現状では樹脂の価格で比較すると石油系原料のものと比べて1.5倍~2倍ほどの価格差となっています。
この課題をクリアするためには、原料として使用するお米の価格を下げることが必要です。現在、政府の備蓄米(古米)が約20万トンあるのですが、今年から国産プラスチックの製造用に安価で購入できるようになりました。
また、ライスレジンが普及することによって、生産性が向上して加工費を低減することが期待できると考えています。



あわいひかり:その他に課題はありますか?

奥田さま:匂いの問題があります。原料がお米なので、容器やフィルムにせんべいのような匂いが残ることがあります。しかし、匂いは時間が経つと薄まるので、容器などであれば採用されやすいと考えています。
今後はゴミ袋やアメニティはもちろん、食品のパッケージや米袋、冷凍食品のトレーなどの商品も増やしたいと考えていますので匂いは大きな課題ではあるのですが、ポリプロピレンベースのものは匂い抜けが早く、ポリエチレンベースのものは残りやすいので、それを踏まえた商品の開発と消臭グレードの開発も進めています。



あわいひかり:原料にお米の割合が増えると虫やネズミにかじられる心配はないのですか?

奥田さま:かじられ調査を実施しましたが、大丈夫でしたよ。

あわいひかり:ライスレジンは、プラスチックの減量化という観点でみた場合にはとても有効だと思うのですが、リサイクルという観点でみると異物となってしまうと思います。それについてはどうお考えですか?

奥田さま:リサイクルできるようにということを目指しているのですが、なかなか難しいのが現状です。かといって、ライスレジンのみを集めるということも難しい。現状でできることは、焼却処分されるものとしては強みが活かせるので、その点から課題を解決していきたいと考えています。

あわいひかり:ライスレジンと通常の樹脂を比較して、CO2の排出量は削減されているのでしょうか?

奥田さま:具体的な数字については、算出に向けて積極的に進めていく予定です。

あわいひかり:これから、お米100%のライスレジンができることを期待したいのですが、現状ではやはり難しいのでしょうか?

奥田さま:そうですね・・・現在ではお米70%:ポリプロピレン30%もしくは、お米50%:ポリエチレン50%というのが強度とコストを考えるとベストバランスだと思っています。技術革新が進んでお米100%のライスレジンができれば理想的ですけどね。

あわいひかり:ライスレジンの他に、御社には「ネオリザ」という商品があるのですが、これはどのような商品なのでしょうか?

奥田さま:はい。ネオリザは米由来の生分解性プラスチックです。京都大学と連携して商品化したバイオマスプラスチックで、そのまま土に埋めると水とCO2に分解されるというバイオマスプラスチックの理想の形ですね。2022年から国内で農業用のマルチシートなどとして試験運用を開始し、多くの需要があります。2025年からの販売を目指しておりますが、それに先駆けて熊本県水俣市では生分解性のゴミ袋として試験的に採用されていて、収集されたゴミ袋は堆肥センターで肥料として再利用されています。現在は袋やシートがメインですが、今後は実験を重ねながら食品パッケージや日用品などにも利用していけることを期待しています。

あわいひかり:本日はお忙しいところ、お時間をいただいてありがとうございました。
バイオマスプラスチックの最新情報を知ることができ、とても参考になりました。

奥田さま:いえいえ、こちらこそありがとうございます。また、新しい研究や素材がリリースされたら、いつでも取材にいらしてください。


ライスレジンとネオリザ。2つのお米由来の国産バイオマスプラスチックで地球環境と農業、2つの課題を解決していくバイオマスレジン南魚沼さま。今後もお米で「!!!」を私たちに届けてくれることでしょう。

  • 取材・文

    森本 未沙(海育ちのエバンジェリスト)

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