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世界第2位の汚染産業である「アパレル業界」。業界が抱える問題とは?

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汚染産業とは、かなりインパクトのある言い方ですが、国連貿易開発会議(UNCTAD)で環境に有害な影響を与えているとして、アパレル業界(繊維・アパレル産業)は世界2位の汚染産業とされています。衣食住のひとつでもある「衣服」は、人が生きていくのに欠かせないものですが、私たちが毎日身につけている衣服がどう環境に影響しているのか、見えにくい問題を調べてみました。

アパレル業界が汚染産業第2位の理由

石油産業の次に環境負担の大きい繊維・アパレル産業。では、その理由はどこにあるのでしょうか。原材料の調達、生地・衣服の製造、そして輸送から廃棄まで、それぞれの段階で見ていきましょう。

例えばみなさんは、一本のジーンズの製造にかかる水の消費量を知っていますか?主に水は原材料である綿花(コットン)の生育や染色で必要となりますが、一本のジーンズが出来上がるまでに7,500〜10,000Lの水が消費されていると言われています。桁が大きすぎてピンと来ませんが、7,500Lは人ひとりが生きるのに必要な飲水量の7年分に相当します。ジーンズの製造は衣服の中でも特に多くの水を必要としますが、Tシャツ一枚にしても2,700Lの水が必要で、世界で利用される産業用水のうち約15%を繊維・アパレル産業が消費しています。
綿花の栽培においては、大量の水の消費により、水源が枯れ砂漠化してしまうことの一因ともいわれています。また、生地を染色する際の排水汚染も深刻で、世界の工業用水汚染の20%を占めるほどです。


ポリエステルやアクリルなどの合成繊維においては、その繊維くず(マイクロファイバー)が、世界で年間約50万トン(石油300万バレルに相当)も海洋に流出しているそうです。主な原因は私たちが日常的に行う洗濯。繊維の擦れや劣化から目に見えない大きさのマイクロファイバーが排水とともに海に排出されています。合成繊維は石油を原料としていて自然には分解されない(生分解性を除く)ので、蓄積することで環境や生態系へ及ぼす影響が危惧されています。

また、製造から廃棄までのCO2排出量も無視できません。世界全体でみると繊維・アパレル産業から排出される温室効果ガス(GHG)排出量は、合計12億トンのCO2に相当し、国際航空業界と海運業界を足した量より多く排出しています。

新品の状態で廃棄される服たち

ここまででも十分すぎる環境負荷が見られますが、それらに拍車をかけているのが、ファッションロス(衣料ロス)と言われる、まだ着られるけど捨てられる衣料廃棄にまつわる問題です。

2000年代半ばファストファッションの台頭により、いち早く流行を取り入れ、大量に生産し、安く販売するスタイルが世界中で広まります。その結果、誰もが低価格で最新のトレンドを取り入れた衣服を購入できるようになり、購入する側の消費サイクルも早まりました。
この大量に生産し大量に消費するサイクルは現在まで加速し続け、日本のアパレル業界では、1990年から2021年の間に市場が7割に減少する一方で、アイテムの供給量は1.8倍になるという歪な状態にあります。それに伴い、衣服1枚あたりの平均価格は3分の1近く下がり、今では簡単に手に入り簡単に捨てられるものとなっています。


日本繊維輸入組合「日本のアパレル市場と輸入品概況」、矢野研究所「繊維白書」より

総務省「家計調査」より

ファッションロスにおいてこの衣服の価値の低下は深刻な問題です。アパレル業界では、仕入れた製品から定価(プロパー価格)で売れた商品の割合をプロパー消化率といいますが、いまの一般的なプロパー消化率は金額ベースで30〜40%程度といわれています。つまり残りの60〜70%は定価より安い価格で売られているということです。定価販売より値引き販売の方が多いというのは、流行の移り変わりの早さに対してトレンドを予想しづらいことに加えて、欠品は損失という価値観でファッション業界が企業間の競争を重ねてきた結果だといえます。

セールなどで価格を下げても売り切れなかった商品は、最終的に廃棄処分されます。2022年、国内では1.5万トン、大型トラックに換算すると1,500台分の新品の衣服が誰の手にも渡ることなく廃棄されています。この数字には、製造時や製造する予定で取り置いていた残布などの廃棄は含まれていません。また、日本で流通する衣服の98.5%が海外の工場で作られています。その過程は、数多くの工場や企業によって分業されているため、環境負荷の実態や全容の把握は困難な状態となっています。

同年、家庭からは47.0万トンもの衣服が廃棄されました。購入した衣服を、とりあえず買ったけど着なかった、まだ着られるけど形が古い、今シーズンの流行りじゃないなどと、袖を通した回数に関係なくまとめて捨ててしまう方も多いのではないでしょうか。そういった個々の行為の積み重ねは、着数に換算すると、一人当たり年間で約18枚の衣服を購入し、約15枚を廃棄していることになります。
メーカーも消費者も、衣服1枚1枚の価値を軽く扱う行動こそが、ファッションロスを増やす最大の要因なのだと思います。

回収された服の行方

リサイクルショップや資源として回収された私たちの衣服は、程度によりリユースできるもの、リサイクルできるもの、廃棄するもの、の大きく3つに分けられます。リサイクルできる古着は、ウエスにしたり、反毛(繊維をほぐし綿状に戻す技術)後、様々な方法で新しい製品へと生まれ変わります。リユースにもリサイクルにも適さない衣服は、焼却されます。

リユースとして想像しやすいのは、古着屋さんではないでしょうか。まだ需要があると判断された衣服は、古着として再度販売されます。ヴィンテージとして価値が上がるものもあれば、お店独自のリメイクによって新しい価値をつけられるものもあるなど、販売方法も様々です。一部は海外にも商品として輸出されており、チャリティーとして貧困国に寄付されるケースもあります。


このような古着の輸出は、主に先進国から行われ、最終的にチリやガーナ、ケニアをはじめとする南米やアフリカ、タイやパキスタンをはじめとする南アジア、東南アジアなどにたどり着き、現地での仕分け作業をへて中古市場で転売されます。古着市場は2000年以降、急激に拡大し2025年には世界のアパレル市場の10%を占めるとも予想されています。中古市場にはヴィンテージや掘り出し物を求めて、世界から古着のバイヤーが買い付けに訪れビジネスとして大きく成長しています。一方、販売できないものや売れ残ったものは、そのまま不法投棄されてしまいます。

そうした衣服が野晒しで山積みになっているチリのアタカマ砂漠は「衣類の墓場」とも呼ばれており、輸入された古着の半数以上が廃棄されているそうです。合成繊維でできた衣服は自然に分解されることは難しく、土壌や水質汚染の原因となっています。また野積みされた衣服の火災による大気汚染も引き起こしています。
このような事象は、アタカマ砂漠だけではなく、古着を最終的に引き受けている各地で起こっており、ファッションロスは世界各国で解決すべき課題と認識されています。

アパレル業界の向かう先

このように、表層を調べただけでもたくさんの問題がありました。

・大量の水消費による水源への影響
・排水による環境汚染
・マイクロファイバーの海洋流出
・大量の温室効果ガス(GHG)排出
・大量生産
・大量廃棄
・途上国への廃棄押し付け
・廃棄後の環境汚染

しかしアパレル業界も、問題に対して無関心なわけではありません。フランスでは2020年に、売れ残った衣類を企業が焼却・廃棄することを禁止する法律が公布され、2022年に施行されています。EUでは、売れ残った衣類や靴の廃棄を禁止する「エコデザイン規制」が合意されました。日本では、2021年に有志企業によりJSFA(ジャパンサステナブルファッションアライアンス)が設立され、2050年までに適量生産・適量購入・循環利用によるファッションロスゼロを目標として掲げています。
また、ファストファッションの代表とされていたグローバル企業は、製造する側の責任としてサステナブルな方向に舵を切ったところが沢山ありますし、日本では製造段階から廃棄まで、それぞれの工程で多くのイノベーションが起こっています。
私たち消費者としては、買ったものは大切に扱い、廃棄するときは回収された衣服の行く先まで考えを及ばせる。余裕のある時は「買い物は投票」の意識で、よりサステナブルな選択をすることが大切だと思います。

最後に、これが全てではありませんが、環境省がまとめている繊維製品の環境ラベルデータベースのURLを置いておきますので、お買い物の際は参考にしてみてください。

環境省 環境ラベル等データベース
https://www.env.go.jp/policy/hozen/green/ecolabel/category/uniform.html

※掲載している写真はイメージです。
参考:財務省 広報誌「ファイナンス」、環境省「サステナブルファッション」https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/、国際連合広報センターhttps://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/32952/、UNCTAD、環境省「ファッションと環境」

  • 星川 雅未(アートディレクター)