Series 連載
『間』と書いて『あわい』と読むことをご存知でしょうか。
現代ではあまり使われない大和言葉のようですが、次のような意味があるそうです。
『間』『あわい』とは、物と物のあいだ、距離、関係性。
『間』『あわい』とは、時間と時間のあいだ、時間的隔たり。
『間』『あわい』とは、人と人の間柄、相互の関係。
そこには単なる何かと何かの間という空間ではなく、意味のある空間が存在しているような気がしませんか?
このあわいひかりでは、人と自然と、今と過去と、誰かと誰かの間(あわい)について考えていこうと思います。
大西 貴志(エコロジカルパスファインダー)
「鳥の目、虫の目、魚の目」で未来への道を探します
香川県西部にある観音寺市豊浜町和田地区では、8月上旬から9月下旬までナシ農家さんがナシの出荷に追われています。
千葉や鳥取といった有名産地と比べると知名度には劣るかもしれませんが、「ホウナンの梨」と呼ばれるこのナシは、とても甘くて美味しいことから地元でも手に入れるのが難しいほど大人気のナシなのです。
どうしてこの和田地域が甘くて美味しいナシの産地になったのか、ジオと農家の皆さんの視点から探ってみます。
ナシ畑が広がる観音寺市豊浜町の和田地区は、讃岐山脈の裾野に広がる扇状地からなる丘陵地帯に位置しています。
また、地質的には砂岩を中心に構成された和泉層群の土地です。
そのために、梨畑のあちこちに砂岩と思われる石がたくさん転がっています。
https://www.gsj.jp/data/50KGM/PDF/GSJ_MAP_
G050_13030_2017_D.pdf
瀬戸内海に向けて開けた和田地区は日当たりこそ良いものの、砂岩を多く含む土壌の扇状地は水はけが良すぎるために、稲作や一般的な野菜の栽培には不向きな土地でした。
その様な土地でどうやって農業をしていけばいいのか、この土地の農家さんは必死で考えたそうです。
まずはミカン。ミカンは水はけの良い土地と日当たりを好むので、和田地区には適している作物でした。
しかし、その当時から地元の香川県三豊市や愛媛県という有名産地が近隣に存在し、後発の和田地区が勝ち抜くのは困難だろうと考えたそうです。
次にモモ。モモは人気のある果物です。しかしモモには連作障害があり、樹齢を重ねて生産性が落ちたモモの古木を伐採しても、同じ土地に若木を植えることができません。
そのため土地に限りのある和田地区ではモモの栽培は適さないだろうということになったそうです。
そして、いろいろな果物を試した結果、収穫までに手間は掛かっても付加価値の高い実がなるナシが選ばれ、この土地でナシの栽培が始まったそうです。
水はけが良すぎる扇状地で、農家のみなさんが猛暑の夏の間も水やりを絶やすことなく愛情を込めて育てたナシは、とてもとても甘いナシになります。
しかし、扇状地である和田地区は、台風や大雨のたびにしばしば大規模な土石流や土砂崩れに見舞われました。
そのたびに、農家の皆さんは山から流れてきた大きな石を取り除き、ナシの苗木を植えなおして、今のような立派なナシ畑を維持してきました。
そして和田地区のナシ栽培の歴史はすでに100年を越えたそうです。
扇状地と農家さんが共同で作り上げた『ホウナンのナシ』
その多くは地元で消費され県外には限られた量しか出回らないそうです。
もし運よく見かけたらぜひご賞味ください。
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撮影
大西 貴志(エコロジカルパスファインダー)