Series 連載

1000軒以上のカレーを食べ歩き、その多様性と歴史、店ごとの個性に魅了され続けてきた。
カレー屋の夢を実現する為、アルバイトの掛け持ちを始めたが挫折。挫折から学んだ経験と、環境への関心も持ち持続可能な未来のための取り組みをカレー業界でも促進したい。独自のスパイスカレーと瀬戸内の食材を焦点を当て連載していく。

安藤 真理子(アートディレクター)

第9話 芽吹きの森をすくって、真夏のカレーに

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段ボールを開けると、ふわっと土の香り。


別連載の間時間第11章「タケノコ堀りから里山の環境を考えてみる」でもとりあげていたタケノコ。
大小さまざまなタケノコが顔をのぞかせる。泥にまみれて、熊の毛のような茶色い繊維に覆われている。

「ああ、タケノコって皮をむく前はこんなに野生っぽいんだ」
これは春の恒例行事、タケノコ掘りの成果だという。
放っておけば、竹林は果樹園や雑木林にまで根を広げてしまう。だからこそ、毎年本社の社員たちが掘りに行く。
環境保全と食のイベントがひとつになった、いわば"春の出張作業"。

「意外と、手軽なんですよ」
と、タカシさんが笑う。道具も揃えてくれていて、手ぶらでOK。見つけて、掘って、美味しく食べるだけ。
そう言われても、私は正直、ちょっと構えていた。
腰をかがめて、汗をかいて、けっこうな重労働じゃないの?
でも、どうやら違ったらしい。
見つけて、掘って、味わって。達成感までついてくるという。
しかも今回、私は“掘らずして”たっぷりのタケノコをいただいてしまった。
これはもう、一石四鳥では?


東京のスーパーでは、新物のタケノコが15cmほどで600円。皮を剥き、硬いところを取り除いたら10cmくらいになってしまった。煮物か炊き込みご飯に使えば、ひと口ふた口でおしまい。少し物足りない。
でも今、私の目の前には、宝の山。
さて、どう料理しようか。

下処理をしながら、ふと思いついた。

「牛肉とタケノコの和風カレーで、ビリヤニなんてどう?」

ジャスミンライスと一緒に入れて炊飯器で炊くだけ、正確には“カレー炊き込みご飯”。でも、ほぼビリヤニ。


柔らかい穂先はアチャールにしてみよう。
イメージは○屋の「やわらぎ」だが、味つけはインド風。中華じゃない。
なぜか「これは美味しくできる」という根拠なき自信があった。

その香りに誘われて、社員たちがぞろぞろ集まってくる。
「ビリヤニ?って何?」
「うーん、ビリヤニ風ですね」
「へえ、美味しい。なんか、落ち着く味」
嬉しい反応にニヤけてしまう。
そして予想を超えて大好評だったのが、タケノコのアチャール。
「これ、家でも食べたい!」
「どんぶりでいけます!」
そんな声に、私はちょっと得意げ。


そこへ、ミサさんからメッセージ。

「今、梅とニンニクと玉ねぎとジャガイモができているのですが、カレーに使用できたりしますか??」
……梅!?
一瞬迷ったが、反射的に「使えます!」と返事していた。
後から気づく。あれ、梅干しじゃなくて“青梅”の話だったか。

さて、どう料理しよう?

でも大丈夫。なんとかなる。夏のキッチンは、冒険と香りで満ちているのだから。

  • 文・撮影

    安藤 真理子(アートディレクター)